「やりたいことを続ける方法はいくらでもある」
たったひとりの“萌木の村所属選手”、ショートトラック・水野彩萌インタビュー

冬季オリンピックの種目としても知られるショートトラックスピードスケート。国内でも企業や学校に所属するたくさんの選手が活躍している競技だ。

そして、ROCKにも実は“所属選手”がいる。といっても、大企業のようにスケート部があるわけではない。所属は1名。現在20歳の水野彩萌だ。

たったひとりの所属選手はどんなふうに生まれ、ROCKでどう夢を追っているのか。彼女に話を聞いた。

ROCKで働きながらショートトラックスピードスケートの選手として活躍する水野彩萌(みずの・あやめ)

「とりあえず採用! スケートは社長に相談すれば大丈夫」

——水野さんはスピードスケートの強豪・長野県の小海高校出身なんですよね。出身はどちらなんですか?

水野 出身は長野県の諏訪市です。小海高校は地域的には少し離れているんですが、スケートをやりたかったので選びました。今年の平昌オリンピックでも2人の出場選手を出していたり、強い高校なので。

——諏訪地域はスピードスケートが盛んですよね。やっぱり小さい頃からやっていたんですか?

ショートトラック競技中の水野

水野 小学校1年生からやっています。でも、はじめたきっかけは偶然みたいなものです。学校で「スケートをやりませんか?」ってチラシをもらって、それで「やってみるか」って。母も私に何かスポーツをやらせたいと思っていたので、機会としてちょうどよかったんです。両親がスケートをやっていたとかではないんですけど。

——高校卒業後にROCKを選んだのはなぜなんでしょう?

水野 私は野辺山(清里からもほど近い長野県の高原エリア)を練習拠点にしているクラブに所属していて、そこのシニアチームで滑っているんです。なので、そこで練習しつつやっていける就職先を探していました。でも、なかなか就職先が決まらなくて……。やっぱり練習や試合と両立するのは難しいとなってしまうんです。結局高校を卒業した3月になっても働き先が決まっていませんでした。

——働き方は難しいですよね。

水野 そうなんです。そんなときに高校の先生に提案されたのがROCKだったんです。「ROCKってレストランだけやっているわけじゃなくて、萌木の村っていうひとつの大きな会社なんだよ。野辺山にも近いし、行ってみたら?」といわれて、そこで初めて働き先として意識しました。

——ROCK自体は知っていましたか?

水野 はい。清里は高校に通うときに電車で通るエリアで、同級生とも食べに来たりしていました。テスト期間とか学校が早く終わるときにいっしょにカレーを食べに来たりとか。

——なじみはあったんですね。

水野 はい。それで電話して面接してもらうことになったんです。スケートをやっていて、スケートをやりながら仕事をしたいと相談したら、「僕たちは仕事の面でしかサポートできないから、シフトの調整しかできないけど、社長(舩木上次)はきっと応援してくれるから、社長のところに行って自分で話をしてみな。そうしたらきっと所属先の話とか聞いてくれるから」って言ってくれたんです。で、その場で「とりあえず今日で採用。寮も入っていいので、4月1日から来てください」って。

——いきなりですね(笑)。

水野 それまでかなり苦戦していたのに、「あれ? 今日で全部決まっちゃった」って(笑)。

——社長とはどんな話をしたんですか?

水野 4月1日に初めてお話ししたんですけど、「スケートやってるんだって? オリンピック出たいんだって?」って聞かれて、所属先がなくて困っているという話をしたら、「おお、いいぞ! やれやれ! どんどんやれ!」って(笑)。

——これもあっさりですね(笑)。

水野 最初は萌木の村を所属先にしようとは思っていなかったんです。とにかく働く先を見つけないといけなかったので、働き方を融通してもらえればという考えでした。でも、社長は「何でも相談しな! できることは何でもやるよ!」って言ってくれて。結局、今は「萌木の村株式会社」所属選手という形になっています。

——たったひとりの所属選手ですね。

水野 そうです。しかも、実は私は形態としてはアルバイトなんです。それなのに「所属」としてくれて、周りの選手にも「どういう感じでやってるの?」って聞かれたりします。

サポートは「できることなら何でも」

——所属選手としてどういうサポートを受けているんですか?

ユニフォームにも大きく「萌木の村」のロゴが

水野 働き方の融通はもちろんなんですが、年間の登録料とか必要な道具なんかでもお世話になっています。今年は平昌オリンピックにも見に行かせていただいたりしました。それもここで働いているご縁が大きくて。ROCKがお世話になっている業者さんの人が「平昌オリンピック見に行かないの? オリンピックめざしてるなら見に行ったら? チケット探してあげるよ」って言ってくださって。とはいえ、費用をどうしようかと思っていたら、(ROCK総支配人の)三上さんに「社長に相談しなよ」って言われて、話をしたら出してくれることになったんです。

——本当にいろんな形でサポートされているんですね。

水野 社長も「おれらはもう若くないから、若い奴の夢には乗らなきゃ」とかって応援してくれて、スケートのことでもほかのことでも、本当に何でも真剣に相談に乗ってくれるんです。ほかのスタッフの人も同じで、すごく応援してくれている。練習や試合で仕事を休むときも、忙しい時期でもみんな「頑張ってね!」「気をつけて!」って笑顔で送り出してくれる。それがすごくありがたいし、嬉しいです。

——普段はどういうふうに働いているんですか?

お店ではホールスタッフとして活躍。ソフトクリームもこんなにキレイに盛れるように

水野 9時から16時までお店で働いて、その後練習に行っています。試合のシーズンが近づく夏は朝に練習してからお店に出て、その後また夜練習という感じです。

——大きな企業に所属する選手の場合は1日練習していたりもするんですよね。その辺はやはりちょっと違う形ですね。

水野 そうですね。スポンサードされているような形ではないので、私の場合は働いて生活を支える必要があります。でも、仕事を通じて気付かされたり、ひとりの人間として成長したりもさせてもらえる。それと、ここでは本当にいろんな人に出会わせてもらえる。社長のつながりのトレーナーさんとか、過去にスポーツで活躍した方とか、いろんな世界の人に会わせていただいていて。大きな企業に所属している人とはまた違う出会いに恵まれています。

——萌木の村にはプロトライアルライダーの塩崎太夢さんもいますよね。

水野 はい。違う競技ですが、どんなトレーニングしているか話をして、取り入れたりすることもあります。競技の話だけでなく、いろんな人にいろんな相談ができるのがありがたいです。

働くことと競技を続けることの新しい関係

——たとえばどんな話を?

今シーズンから通勤を自転車に切り替え、片道8kmをトレーニングに。ちなみに、バッグに貼られた「ROCK」のステッカーも、水野のために特注したビッグサイズ

水野 スケートを続けるか悩んでいる時期があったんです。萌木の村にすごくサポートしてもらって、それなのに結果が出せない。「こんな状態でスケートを続けていていいのかな? 辞めた方がいいんじゃないか」って。でも、その話を社長にしたら「自分はどうしたいんだ? もうスケートはやりたくないのか?」って聞かれたんです。それで「やりたいです」って答えたら、「お前は自分を信じろ。自分を信じて自信を持て」って言われたんです。「自分に劣等感を感じなくていい。努力すればダメなところがいいところに変わるから、ポジティブな気持ちで自分を信じて頑張れ」って。それはすごく印象に残っています。社長だけじゃなく、ROCKのスタッフはみんなそうなんです。「大丈夫だよ。まだいける」「できないこともあるけど、できることは何でもするから」っていつも言ってくれる。練習なんかの面ですごく優遇される企業ももちろんたくさんあると思いますが、そういう差はたとえば朝練習したり、通勤を自転車に変えたりと、いろんな形で埋め合わせられると思うんです。というより、それを言い訳にして「スケートがおろそかになっている」とはしたくない。その上で、ここで働いて、スケートをやれていることはラッキーだと思っています。

——社会人としてスポーツを続ける、選手として競技を続けるための選択肢って今はそれほど多くないですよね。水野さんとROCKの関係は、競技選手の新しい選択肢としての可能性を感じます。

水野 そうですね。企業や学生という形でなく、スケートを続ける道を選んだことで学んだのは、スケートに限らず、やりたいことをやる方法はいくらでもあるのかなということです。私は社長に会えたのがラッキーだったと思いますが、お金や状況のせいにしていろんなことを諦めるのは違うなって感じるようになりました。

——これからの目標は?

水野 大前提としてとりあえず日本代表として世界と戦うことが最初の目標ですね。その先にオリンピックがあったらいいなと思うんですけど、私はまだ日本で20番目くらいなので、まずは日本代表にならないといけない。もちろん“萌木の村所属”で。その先はまだ考えられていませんが、私が頑張って有名な選手になれたら、「水野彩萌ってROCKってお店にいるんだって」ってROCKがもっと有名になったらいいなと思います。

——ありがとうございました! 今シーズンの活躍、楽しみにしています。

前の投稿
「もったいなくてもう2度とつくれないかも…
戻る
次の投稿
総支配人・三上が聞く!Vol.02 「起点はい…

ROCK MAGAZINE ROCK MAGAZINE