「もったいなくてもう2度とつくれないかも」
ROCK「Re:birthdayパーティー」で飲める新ビールはどんなもの?

いよいよ6月9日の開催が近づいてきたROCK「Re:birthdayパーティー」。2016年の夏に火災で店舗が全焼したROCKが、新店舗とともに復活した2017年6月9日から1年を迎えることを祝って、皆さんへの感謝を込めて開催するイベントです。

そんな「Re:birthdayパーティー」ではイベントなどに加えて、特別なビールも用意されます。「ケルシュ」と「プレミアムロックンロールボック」という、この日のためにつくられた2種類のビールが登場するんです。

今回の新ビール、いったいどんなものなのか、醸造を担当するROCKのヘッドブルワー・松岡風人に話を聞きました。

ROCKのビール工房である八ヶ岳ブルワリーのヘッドブルワー・松岡風人

わんこそばのようにグイグイいけちゃう「ケルシュ」

——もうすぐROCK「Re:birthdayパーティー」。今回のパーティーのために新しくつくったビールもいよいよお披露目となります。

松岡 今回は「ケルシュ」と「プレミアム ロックンロールボック(以下「ロックンロールボック」)」という2種類にチャレンジしました。やっぱり既存のものだけじゃ面白くないですから、新しいスタイルのビールをつくろう、と。お店としても新しいことにチャレンジしようという試みなので、醸造でもそこでチャレンジさせてもらうことにしました。

——それぞれどういうビールなんですか?

松岡 真逆の2種類を飲み比べてもらおうというのが今回のコンセプトです。ROCKのビールづくりはドイツ式なんですが、「ケルシュ」はケルンでつくられているビールです。グビグビ飲めるライトなテイストで、これからの初夏に合うイメージでつくれたらいいなと思っています。一般的にはビールってアルコール度数5%前後のものが多いんですけど、これは3〜4%くらいの予定です。

——本当にローアルコールですね。

松岡 「わんこビール」なんて呼ばれてるくらいで、どんどんおかわりして飲むビールなんですよ。味も本当にクセがないというか、ホップや麦芽の香りは少なくて、酵母のフルーティな香りがちょっとある。ドイツでいろいろなビールを飲んだんですが、特に気に入っているもののひとつです。ローアルコールビールもいろいろありますが、つくるなら好きなものをつくろうということで。まあ、本当は「ケルシュ」って名乗れないんですが(笑)。

——そうなんですか?

松岡 本当の「ケルシュ」はケルンでつくったものしか名乗れないんです。なので、今回のものは正確には「ケルシュ」のスタイルでつくったビールということですね。

とびきり濃厚でハイアルコールな「ロックンロールボック」

——「ケルシュ」がライトなタイプなら、「ロックンロールボック」は……

松岡 こっちは極端なハイアルコールタイプです。ドッペルボックいうスタイルでも、俗に「ダブルボック」と呼ばれるようなものをイメージしたビールですね。

——ボックタイプのビールはROCKにもありますよね。

松岡 「プレミアム ロック・ボック」ですね。これ自体がもともと麦芽使用量が多い、濃厚なビールです。ROCKのビールで「プレミアム」とついている唯一のビールですから。アルコール分も7%と高めです。「ロックンロールボック」は、それをさらに極端にハイアルコールにしてみようという狙いのビールです。今まだ発酵中ですが、現時点(取材時の5月上旬)で9%くらいあります。

醸造中の「プレミアム ロックンロールボック」

——9%! ハイアルコール酎ハイレベルですね。

松岡 これくらいアルコール度数が高いと、必然的に濃厚にしないといけないんです。スッキリさせるとアルコールの香りがすごく強く感じてしまうので飲みにくくなっちゃう。それってビールにとっては致命傷といってもいい。だから、麦芽の香りとかでふくよかにしてあげるんです。「ロックンロールボック」でも一番麦汁のみを使うことにしました。

——いわゆる「一番搾り」ですね。言葉としてはよく聞きますが、どういうものなんですか?

松岡 麦汁をろ過したときに一番最初に取れる麦汁です。ろ過しても麦芽にはまだまだエキスが残っているので、そこにお湯をかけて「二番麦汁」「三番麦汁」を取るんです。ただ、一番麦汁はやっぱり濃厚で雑味が少ない。ものすごく純粋な麦汁という感じです。今回はそれだけを使いました。

「ロックンロールボック」はもう2度とつくれない?

——それ、残った麦芽はどうするんですか?

松岡 大手のメーカーさんだと「二番麦汁」「三番麦汁」を取って別のビールで使ったりもするんですけど、うちの場合は……捨てました(笑)。

——え。

松岡 ROCKだと施設が限られてるので、複数のビールを同時醸造できないんですよ。だから、捨てざるを得ない。取ろうと思えばあと1000リットくらいは麦汁を取れたんですけどね。社内的にもちょっと大きな声では言えない(笑)。

——ぜ、贅沢……!

松岡 しかも、「ロックンロールボック」は一番麦汁を薄めず使ってるんです。いわゆる一番麦汁のみを使うビールって糖度の調整もあって薄めているんですけど、「ロックンロールボック」はハイアルコールなので、ものすごく糖度が高いまま使っています。酵母がアルコールをつくるわけですけど、その酵母のエサになるのが糖分なので、ハイアルコールのお酒をつくろうと思ったら、それだけ糖分が必要になるんです。

——じゃあ、同じ量の原料を使ってもできるビールの量はすごく少ないんじゃ。

松岡 今回は800リットルくらいできあがる予定なんですけど、まあ、普通なら2倍以上、へたすると3倍近くできるかな?

——今お店で出している「プレミアム ロック・ボック」もROCKのビールのなかではちょっと高い方ですよね。

松岡 グラスで660円ですね。同じようにお店で出そうと思ったら倍以上でしょうね。まあ、ハイアルコールビールはどこもそれくらいしますが。ハイアルコールビール自体、ビアパブみたいなところしか扱ってないですよね。普通のお店じゃ売れないでしょうから。1杯で普通のビール3杯は飲めちゃう値段ですから(笑)。

——それを「Re:birthdayパーティー」では690円のチケットで2杯飲めるんですか?(※) 怒られません?(笑)

松岡 まあ、今回はそういう相場は関係なく(笑)。ただ、こういうイベントじゃないとつくれないビールですね。「ロックンロールボック」は醸造に時間もかかるんです。「ケルシュ」なんかは2週間くらいでできちゃうんですけど、「ロックンロールボック」は2か月くらいかかる。それだけタンクを占有しちゃうわけです。だから、うちみたいな小規模ブルワリーだとタンク繰り的にも厳しい。普段は絶対つくりません。

——またつくるにしても来年の「Re:birthdayパーティー」とかですかね。

松岡 いや、どうなんでしょうね。もうつくらない可能性の方が高いんじゃないですか?(笑)いろいろもったいないですから、本当に。

※「Re:birthdayパーティー」はドリンク、料理ともにチケット制。690円で2枚1組のチケットを購入でき、1枚でビールなどのドリンク1杯と、2枚で「甲州麦芽ビーフのもも肉焼き」などの料理1皿と引き換えられます。

人間にとっても酵母にとってもチャレンジ

——それにしても、新しいビールをつくるときってレシピがあるわけじゃないんですよね? 試作できるわけでもないし。

松岡 一応試作リキッドというのもあるにはあるんですよ。アメリカのブルワリーなんかはそれを使ってつくっています。でも、それを買ってうちのビールとリンクさせておいたらまったく同じものができるかといったらそうはいかないと思うんですよね。試作で少量つくるのと、大量につくるのだとやっぱり味が変わってくるので。

——そういう意味では新しいビールをつくるのって本当にチャレンジですよね。

松岡 もちろんイメージはあるし、基本的な考え方もありますけど、つくってみないとわからない部分もたくさんありますね。今回の「ロックンロールボック」にしても、うちの酵母がどれくらいアルコールを生成できるかというのは未知数でしたし。

——そうなんですか? 糖度が高ければ自然とその分アルコール度数が高くなるんだと思っていました。

松岡 アルコールは酵母が糖分を食べて分解することでできるので、ハイアルコールのお酒をつくるときはそれだけ糖分が必要になるんですけど、糖分さえあればハイアルコールになるとは限らないんです。酵母は生き物なので。実際にどれくらい糖分を食べてくれるかはやってみるまでわかりませんでした。

——松岡さんたちだけでなく、酵母にとってもチャレンジだったわけですね。

松岡 そうですね。結果的にはものすごい勢いで食べてくれました。普段麦汁に酵母を入れても、1日目ってそんなに変化がないんです。発酵が進むときは麦汁の温度が上がるんですけど、1日目は上がっても1度くらい。それが「ロックンロールボック」はいきなり3度くらい上がったんで。酵母もビックリしたんでしょうね、あんな糖度の高い麦汁、普段絶対出会わないですから(笑)。ごちそうだったんだと思います。

——面白いですね。酵母って本当に生き物なんですね。

松岡 はい。今回使った酵母はこれでお役御免になったりもします。通常の「プレミアム ロック・ボック」もそうなんですけど、これくらい糖度の高い麦汁を食べちゃうと、もうそのあと全然食べなくなっちゃうんです。食べることは食べるんですけど、すごく遅い。ごちそうを食べちゃうと、糖度の低いピルスナーとかラガーの麦汁なんて質素すぎるんでしょうね(笑)。

——人間味を感じますね(笑)。

「ケルシュ」をチェイサーに「ロックンロールボック」を飲む!?

——そんな酵母の頑張りがもう少しで飲めるわけですね。

松岡 まだ(取材時点では)発酵中ですが、そろそろ熟成に入る予定です。どの程度甘さを残して熟成に入るか、そのバランスを考えているところですね。

——飲み方としてはどんな飲み方がオススメですか?

松岡 「ケルシュ」をチェイサーみたいにして「ロックンロールボック」を飲むって感じじゃないですかね(笑)。ケルシュは本当にスッと飲めちゃうビールなので。

——まず喉を潤すにはピッタリですね。

松岡 そうですね。軽い料理なんかといっしょに飲んだりという感じですかね。「ロックンロールボック」は逆に油ものとか重いものと合わせるといいんじゃないかと思います。「Re:birthdayパーティー」で出される甲州麦芽ビーフのもも肉焼きなんかは相性いいはず。

——できあがるのが楽しみですね。

松岡 そうですね。どんなふうに飲まれるか、ワクワクします。「八ヶ岳ビール タッチダウン」は去年(2017年)20周年を迎えて、そのときも「プレミアムピルスナー」という新しいビールをつくったんです。そういうチャレンジ、新しいジャンルの開拓はこれからも続くと思うので、こうやっていろいろ新しいタッチダウンを見せていけたらいいなと思っています。「Re:birthdayパーティー」がそういうチャレンジをするきっかけになっていけば面白いですね。ROCKにとって特別な日でもあるので。

【Re:birthdayパーティーについてはこちら!】
https://rock1971.jp/feature/rebirthday2018/

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