総支配人・三上が聞く!Vol.01(後編)
「職業はワインづくりじゃなくてもいい」
ボーペイサージュ・岡本英史さん

ROCKの若き総支配人・三上浩太が「今会いたい人」「話をしたい人」に声をかけて、飲食店という枠を超えた話をするシリーズ「三上が聞く」。今回は山梨県北杜市でワインづくりを行うボーペイサージュの岡本英史さんをお招きしての対談後編です。

ボーペイサージュ・岡本英史さん(左)とROCK・三上浩太(右)

ワインづくりの話になるかと思いきや、お話は教育や生き方の話に……。

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【岡本英史】
1999年、ワイナリー「ボーペイサージュ(Beau Paysage/フランス語で「美しい景色」を意味する言葉)」を設立。山梨県北杜市津金の土地でワインづくりをスタートする。「ワインは人が造るものではなく、土地が造るもの」という思想のもと、土地の個性をあるがままに反映させたワインづくりを続けている。

「農学部を出たのになんで農業をやらないの?」

岡本 日本の教育システムってすごく効率が悪くなっちゃってると思うんです。たとえば、「まだ決めなくていいよ。まだ決めなくていいよ」ってずっと大学くらいまで何の専門も特に持たずに進めてしまうんですよね。それはいい面ももちろんあるんですけど、なんというか……すごく損失でもあると思うんです。たとえば農業でも、アメリカだと農業って基本的に大学の農学部を出た人がやることなんです。僕も農学部なんですけど、卒業したときは普通に就職するつもりだった。そうしたら、アメリカ人の友人から「お前は農学部を出たのになんで農業やらないんだ」って言われて。そのときは「何言ってんだろ」ってくらいだったんですけど(笑)。

三上 日本だと大学の農学部を出ても農家になる人はほとんどいないですもんね。みんな食品会社とか商社に就職する。

岡本 でも、それって社会にとってはすごい損失じゃないですか。公立でも私立でも大学には税金が使われていて、そこでせっかく農業を学んだ人を育てたのにその人たちが農業をやらない。もったいないし、非効率だなって思うんです。だったら普通の会社は高卒で働けるようにしておけばいいんじゃないかって思うんです。お給料は専門外の大学を出ている人と同じにして。それで、農学部はどれくらいそこで学んだ人を農業に送り込んだかによって補助金の額を決めるとか、そういう仕組みにした方がいいと思うんですよね。

三上 高校も大学もすごく大事な時期だと思うんです。大人に直結するような知識を貯められるので。そこまでにそれぞれのアイデンティティみたいなものの、可能性を広げてあげるという教育があるといいですよね。それがないのが、日本の今のスパイラルにつながっている気がします。

岡本 そこまでの教育がちゃんとできていないと、急に12歳の子に将来の職業を決めさせるっていうのは無理ですよね。

同じ先生なのにどうして大学は給料が高くて幼稚園は低いの?

三上 小さい頃の教育って大事ですよね。

岡本 もっと幼稚園とか小学校を大事にしないといけないですよね。今日本の大学で教えている、デンマーク出身の女性がこの間うちに来てくれてお話を聞いたんですけど、デンマークでは男女はもちろん、幼稚園の先生も大学の先生もみんな同じお給料なんだそうです。「人を教えるのに、大学だから高くて幼稚園だから安いって、なんかよくわかんない」って言われて、ああ、確かにそうだよなぁって。むしろ幼稚園の頃の方が人格の形成には影響が大きいかもしれない。じゃあ、なんで幼稚園の先生は給料が安いんだろうってハッとしたんです。同じお給料にしたら多分保母さんになりたい人も増えるだろうし、待機児童の問題だってなくなるでしょう?

三上 確かに!

岡本 しかも、日本って教育に対する方向性を迷っていた時期があるでしょう? 急にゆとり教育ってなったりとか。教育で実験しているみたいな形になっちゃってる。ある意味では人体実験みたいなもの。それってけっこうひどいことだと思うんです。だったら、無理をして日本独自のものをつくろうとしないで、教育も仕組みからカリキュラムから全部、外国から直輸入した方がいいと思うんです。

三上 僕もゆとり世代なのでいろいろ言われたりもしました。世代としても「指示されないと何もできない」とか言われますよね。

岡本 でも、最近僕がよく聞くのは「何も言われずにやっちゃう」って人がいて困ってる話なんですよ。

三上 どういうことですか?

岡本 料理人でも、パン屋さんでも、そこのレシピを勝手に変えたりしちゃう人がいる、と。「なんで変えるの?」って聞いたら、「こっちの方がいいと思ったので」って。「言われないとできない」って、実はある意味いいことだったんですね。でも、そのときにいいことだって言える人がいなかった。もちろん「自分で考える」っていうのはすごく大事なことなんだけど、言葉の表面だけとらえてしまうとすごくマイナスに作用してしまう。自分で考えるならそうとう勉強しなきゃいけないし、結果に責任をとらないといけない。

ワインづくりはひとつの手段

三上 岡本さんの考え方やスタンスってすごく腑に落ちるし、面白いんですけど、そういうのっていつできあがったんですか? どこかで転機があって考え方が変わったんですか?

岡本 ずっとこんな感じですね。どうも周りからは「ストイックな人」とか「難しそうな人」って思われたりするんですけど……(笑)。

三上 「ワインづくり!」「職人!」って思いますよ(笑)。

岡本 僕、ワインをつくることが好きなわけでもないし、職種はなんでもいいんですよ。たまたまワインがあったからワインをやってるだけで、別に今も一生ワインをやっていきたいと思ってるわけではないし。

三上 それ、すごく意外です。

岡本 たとえば無人島に流されて、もう一生誰も助けに来ないとなったときに、たまたまそこにぶどう畑とワインの醸造施設があったら、ワインをつくるかって考えたとき、たぶん僕つくらないと思うんです。1日海を眺めて無駄に過ごしちゃうと思う。つまりつくること自体が好きなんじゃなくて、つくって飲んでもらう、喜んでもらうことが好きなんであって、喜んでもらえるんだったら手段は何でもいいんです。それが本当に自分のやりたいことなんですよね。それってたぶん、多くの人が同じだと思うんです。なのに、みんな職種にとらわれ過ぎちゃっている。だから、「天職を探そう」みたいになっちゃう。

三上 僕もたぶん根は同じようなところにあるんだと思います。「人に楽しんでもらいたい」っていうのが大きい。自分の家がCD屋さんだったから、小さい頃からそれを見ていたのも大きかったのかもしれないです。それと、やっぱりポール・ラッシュ博士のホスピタリティというのは衝撃でした。僕は直接お会いした世代ではないですけど、社長の舩木やほかのいろんな人から聞かされたり教わったりすると、本当に気遣いの人なんですよ。だから「人に楽しんでもらいたい」っていうのは僕にとってはすごく自然なこと、当たり前の前提なんだと思います。だから、人と関わるのも楽しいし、せっかくならもっと有機的ないい関係でいたいと思うんです。

岡本 飲食店って本来そういうふうに人と人がつながる場所だと思うんです。全然知らない人と、価値観の違う人とも出会える。日本って価値観が近い人同士がつながりやすくて、それはそれでいいことでもあるんですけど、それだけだとだんだん視野が狭くなっていく。だから、海外のホームパーティーやBBQ文化って実は重要なんです。彼らは1週間に1度は全然意見が合わない人たちと2時間くらい食事をしなきゃいけない。そういうことに普段から慣れているんです。だから、なるべくですけど、いろんな人たちが集まる機会をつくることが重要だと思います。そうやって会って話をすれば、基本はそんなに悪い人っていないんで。

三上 ROCKがそういう場所になれればいいですね。カレーを食べるとかビールを飲むとか、それだけじゃなくて、それ以上に「この場所」の価値を出していきたい。

岡本 「この場所で」って考えるより、もっと広い発想で考えた方が面白いと思いますよ。「北杜市で」とか「日本で」とか。「この空間で」って考えるとだんだん発想の視野が狭くなっていってしまう。例えばウチだったらボーペイサージュのことばっかり考えてたら、多分全然面白くなくなっちゃうんです、きっと。だから、「ROCKのため」「萌木の村のため」っていう発想は捨てちゃった方がいい気がします。こんなことをいうと怒られるかもしれないけど(笑)。

三上 いえ、本当にそうだと思います。岡本さんともぜひ何かやりたいですね! 今日は素敵なお話ありがとうございました!

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