総支配人・三上が聞く!Vol.01(前編)
「仕事も休みも本当は同じ」
ボーペイサージュ・岡本英史さん

ROCKの若き総支配人・三上浩太が「今会いたい人」「話をしたい人」に声をかけて、飲食店という枠を超えた話をするシリーズ「三上が聞く」。第1回目は山梨県北杜市でワインづくりを行うボーペイサージュの岡本英史さんをお招きしました。

ボーペイサージュ・岡本英史さん(左)とROCK・三上浩太(右)

ボーペイサージュはぶどうの栽培からワインの製造、販売までを一貫して行うワイナリー。そこで生まれたワインは「奇跡のワイン」なんて呼ばれており、今や毎年入手困難なワインになっています。

そんな岡本さんの考え方や生き方に共感している三上が、たっぷり話を聞きました。

【岡本英史】
1999年、ワイナリー「ボーペイサージュ(Beau Paysage/フランス語で「美しい景色」を意味する言葉)」を設立。山梨県北杜市津金の土地でワインづくりをスタートする。「ワインは人が造るものではなく、土地が造るもの」という思想のもと、土地の個性をあるがままに反映させたワインづくりを続けている。

ワインは「美味しい」「美味しくない」という飲み物ではない

——おふたりは普段からよく会われてるんですか?

三上 そうですね。岡本さんはお忙しい方なんで、僕らが呼びつけているというか(笑)。うちの舩木(ROCK社長・舩木上次)と昔から交流があったんですよね。

岡本 夢甲斐塾っていう山梨県でやっている松下政経塾みたいなものがあるんですけど、そこで舩木さんにお会いしたんです。

三上 夢甲斐塾に入られてたんですか?

岡本 実は一期生です。

三上 それ以来、会社としてもお付き合いするようになって、何かにつけてお話しさせていただくように。一度ボーペイサージュのワインをズラッと持ってきていただいたこともありましたよね。「申し訳ないな」と思いつつ、心のなかでは「よっしゃ!」って(笑)。

岡本 2003年、06年、09年、12年という感じで年ごとにワインを並べたんですよね。日本だと今、ワインって飲み物のひとつで、つくる側も「美味しい」「美味しくない」って基準で扱っていますけど、本来そういうものじゃない。ワインは「その年の味」が出るわけで、あとはそれを人間がどう受け入れるかという話なんです。そういう飲み方の文化を、身近な人からちょっとずつわかっていってもらえたらいいなって。

三上 岡本さんの場合はぶどうをつくるところからやっているから、そういう考えに行き着くのかもしれないですね。産業として大きくやると、どうしてもぶどうづくりはぶどうづくり、ワインづくりはワインづくりって形で分業になってしまう。それだとその年がどうだったかとか追い切れなくなる。そういう意味で、岡本さんのやっていることは尊いですよね。そういう考え方って今の時代に必要なんじゃないかっていつも話してるんです。ワインに限らず、人間のコアな部分というか、目指してる未来とか、そこに共鳴するところがあるんです。

岡本 ワインの話をすることってあんまりないんですよね。ワイン以外の話をすることの方が多い。たとえば最近知り合いと話したのは幸福度の話で……。国連が毎年、世界150か国以上を対象にした世界幸福度ランキングっていうのを発表しているんですけど、日本ってだいたい50位台なんですね。自分が子どもの頃はあんまり興味なかったんですけど、大人って呼ばれる年齢になった時に、その数字に責任を取らなきゃいけないって考えるようになったんです。でも、どうやって責任を取ればいいんだろうって。周りを見ていても基本的にみんないい人で、真面目に勤勉に働いてる。その結果が54位とかそういう数字なのって何なんだろうって思うんです。一人ずつはすごくいいことをしてるんだけど、なんかバランスが取れていない。あんまりうまく行ってないのかなって思うんです。

三上 すごくわかります。自分の日々の仕事と重なっちゃいます(笑)。スタッフみんなすごく頑張ってるのに、それぞれの幸福につながっている感じがしない。そこを変えようと今奮闘しているわけですけど……。

仕事と休みが対立してしまう日本

三上 今の日本の働き方や仕組みってうまく機能してないんじゃないですかね。今は仕事とプライベートが完全に切り離されてるでしょう? でも、岡本さんはそうじゃない感じがするんです。いつもワインのことを考えてるわけではないでしょうけど、いつも仕事とプライベートがどこかでつながっているんじゃないですか?

岡本 あんまり意識したことはないですけどね。好きなことをやっているので。

三上 それが全てですよね。好きなことで生きていけている。それが一番大事なことだと思うんですよね。好きなことしかやらない。嫌いなことはやらない。時代的にもそういう流れなんじゃないですか?

岡本 意外かもしれないですけど、ヨーロッパなんかを見ていると、彼らは仕事とプライベートを分けないんです。「どっちも人生だ」って思ってる。日本だと仕事と休みが敵対しちゃう。でも、本来はそうじゃない。会社もうまくいったらいいし、それはそこで働く人の人生がうまくいくのとつながってる。たとえば、休みがあると生産者を訪ねたり、美術館に行ったり、休みを自分の仕事に活かせることに使っている。そうすると仕事のクオリティが上がって、もっといい生産者さんや展示会に行けるようになって、さらに仕事がよくなる。お客さんも喜んでくれる。

三上 今、働き方改革で休みを増やそうって言ってますけど、日本では……

岡本 今の日本で休みを増やしてもうまくいかない気はしますよね。休みが増えても「じゃあ、寝よう」とか。日本人って仕事と休みをハッキリ分けているんですけど、仕事につながらない休みの使いかたをすると、当然だんだん(仕事のクオリティや業績が)落ちていっちゃうと思うんですよね。かといって、単に「休みの日は仕事につながることをしなさい」って強要してしまったら、「休みの日なのに結局仕事」となってしまう。向こうの人たちだったら「それなら辞めたら?」って言うと思うんです。彼ら自身もそんな仕事たぶんやらないと思う。

三上 休みの日に何か吸収しようと思えない仕事だったら向いてない、と。

岡本 そう。実際、飲食なんかを見ていても、世界的に休みを増やそうって方向に進んでいるんです。グラン・メゾンと呼ばれるような世界トップクラスのレストランの人たちがそういう方向に引っ張っていっていて。飲食はすごく過酷な産業だったけど、それは自分たちの世代から下には受け継がせないって、週休2〜3日でまわるような方向に進んでいる。ただ、彼らはそれでまわるようにうまく休みを使っている。「休みを増やした分、業績を上げる」というのが、向こうの人たちにとってはイコールなんです。そうすることでもっと人生がよくなるというのがわかっている。資本主義というのをすごく理解して生きているんですよね。

「理想の生活」から働き方を考えよう

——単に「働くことと生きること、休みがイコール」というと、日本だと「働くために生きるのか!」と受け止めてしまいますよね。

岡本 そうじゃなくて働くことも人生を幸せにすることの一部ってことなんですよね。その辺がどうもうまくいっていない気がするんです。農業なんかを見ていても、この地域って新規就農者がすごく多いでしょう? でも、なんだかうまくいっていなかったりする。こだわらなくてもいいのにって部分にこだわってる。まず最初に自分の理想の暮らし、生活というものがあって、そのためにどういう仕事をするかというのに落とし込んでいくという順序じゃないといけないと思うんです。なのに、たとえばみんな、先に自然農法みたいな農法ありきでやってたりする。それで、ほかのものが犠牲になって、どんどん疲弊してしまう。

三上 理想の生活から仕事や生き方を設計していくって発想は日本ではあまりないですよね。

岡本 今、一軒一農家ってもう時代遅れで世界では新しい農業がいっぱい生まれてる。チームでやったりとか、農業だってもっと楽にやったらいいのにって思うんですよね。その方がもっといろんなことができるようになる。幸福度だって上がると思うんです。そうやって、この地域の幸福度が上がっていったら面白いじゃないですか。たとえば、日本全体では幸福度は世界で50位とかだけど、(ROCKのある山梨県)北杜市だけ見たら20位だとか。そうなったら「じゃあ、彼らはいったいどういうライフスタイルなんだろう?」って、日本中、世界中から見に来る人たちが生まれると思う。そこに暮らす人が観光資源になる。

三上 北杜市、八ヶ岳周辺ってポテンシャルはあると思うんです。素晴らしい自然があるし、実際に岡本さんみたいにいろんな働き方をしている人もいる。人が集まってくる土壌はあると思っています。そのなかで、そういういろんな生き方を提示できたり、そういう人たちが有機的につながれるようなコミュニティがあったら、いくらでも人がやってくるんじゃないかって。みんな自分にとっていい生き方を見つけられずにいる気がするんです。

岡本 日本ってすごい自由だけど、自由すぎて本物、いいものが育ちにくい気がするんです。ワインでも、30歳、40歳になって「好きだからワインをつくってみたい!」って人が始めたりするんですけど、結局理想どおりのものができなかったりするんですね。僕が「このワインすごいなぁ」って思ったものをつくっている人がいるんですけど、その人はチェコの人で。彼は12歳からワインの世界に入っているんです。醸造の学校を出て、世界中の面白いワイナリーを見て回って、それで帰ってきてワインを自分でつくり始めたときに26歳。

三上 それだけの経験をしてまだ26歳ですか。

岡本 そういう人たちが世界のベスト50みたいなレストランにオンリストされているんです。たぶん日本ってスタートがすごく遅いんじゃないですかね。自分もそうなんですけど、人生の一番いい時期、高校とか大学の時期をふらふら遊んじゃったんですよ。もったいなかったなぁって。高校くらいからもうちょっと目標をはっきり持てていたら、今の自分の感じで過ごせていたら、また全然違っただろうなって思うんです。

三上 僕も日本の学校ってどうしてもいいイメージが持てないんです。無機質で、みんな同じことやらなきゃいけないみたいな考えが好きになれずにいる。

岡本 そうだと思います。オーストラリア人の友人も同じことを言ってました。「あまりにもひとつの方向に向けすぎじゃないか」って。それぞれ子どもも違うのに。

三上 日本の場合はそれがいいって教育ですもんね。

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