ROCKにある大きな釜、どんなふうに使っているか知ってますか?
「八ヶ岳ビール タッチダウン」のできるまで

カレーと並ぶROCKの名物といったらビール。ROCKは店内にビールの醸造施設が併設されており、そこで「八ヶ岳ビール タッチダウン」というビールをつくっています。

ROCKの店内にある大きな釜。お店に入るとすぐのところにあります。

店内にある2つの大きな釜は、お店に来た人なら見たことがあるでしょう。WBA(ワールド・ビア・アワード)など様々な賞を受賞しているタッチダウンは、実際にここでつくられているんです。

……というのは知っているものの、じゃあ、この釜がどんなふうに使われているか、実際にどんなふうにビールが出来上がっていくのかを、知っている人は多くないのではないでしょうか? 私もそんなひとりです。

そこで今回はROCKのビールづくりに立ち会って来ました。

早朝6時30分集合!

4月なかば、春とはいえ標高の高い清里はまだ寒さが残る時期。早朝6時30分からROCKの店内には大きな音が響いていました。

今回お邪魔したのは「白樺ビート」の仕込みの日。白樺ビートは春先にだけ採れる白樺の樹液を使った季節限定のビールです。

日本酒などは「寒仕込み」という言葉があるように、一般的には寒い時期に仕込むことが多いですが、同じお酒でもビールは出来上がりまでの期間も比較的短く、1年中つくることができるんだそうです。白樺ビートの場合は白樺の樹液が採れる時期が限られているため、必然的にこの時期の仕込みになるのですが、ROCKでも年間何度も、時には何日も連続してビールの仕込みを行なっています。

さて、仕込みの日まず行われていたのは麦芽の粉砕作業です。ビールの原料となる麦芽を機械で細かく粉砕していきます。今回は約2,000リットルのビールをつくるために、実に300kgもの麦芽が用意されていました。

こちらが麦芽を粉砕する機械。大きな音を立てながら稼働していました。

麦芽をどんどん機械に入れていきます。重そう!

こちらが材料となる麦芽。

ビールは大雑把にいえばこの麦芽を煮て、発酵させることでアルコールをつくっています。なので、仕込みの工程は麦芽を入れて加熱し、そこにホップなどの原料を加えていく作業になります。

それだけ聞くとすごく単純ですよね。原理自体は複雑ではありません。ですが、実際に立ち会うと非常に細かい調整の連続です。

例えば最初に粉砕した麦芽を釜へ移して熱を加えるのですが、この時の温度は45度〜50度程度。これはプロテインレストといって、発酵の時にイースト菌に必要な栄養素をつくる作業です。まずこの状態で30分ほど寝かせます。

粉砕された麦芽は店内にある釜へと送られます。釜の中にはお湯。もうもうと湯気が上がっていました。

続いてはマッシング。今度は酵母の栄養になる糖分をつくっていく作業です。糖分をつくるために温度も上げ、ここでは65度に調整します。

5分ほど寝かせたあと、一部は別のタンクに送り、70度ほどにします。こちらも少し寝かせたあと、今度はさらに加熱して97度以上に。これはデコクション製法というドイツ式の手法なんだそうです。

糖分をつくっているため、甘い香りが漂ってきます。実際、この時の麦汁は糖度的にはイチゴなどと同じくらいあるんだそうです。甘い麦茶といった状態ですね。

97度まで加熱するのは店舗地下にある釜で行われます。甘い匂いが上まで伝わってきました。

ここでまた寝かせます。この工程はビールのコクなどに影響するんだとか。

そして、別のタンクに送って加熱していたものを、元のタンクで65度で寝かせていたものとミックスし、ようやく最初の行程がひと段落となります。この時の温度は78度。この温度も重要で、高くても低くても味が変わってしまうんだそうです。78度というのはもっとも雑味が少なくなる温度なんですね。麦汁の一部を別のタンクで煮沸して混ぜ合わせるのには、こうして最後に混ぜたときに効率的に適温にするためという意味もあるんです。

この時点で最初の作業開始から2時間以上が経過。8時30分になっていました。

ここまでは麦芽を煮て麦汁をつくる作業なのですが、とにかく温度管理と寝かせの連続。特にROCKの場合は昔ながらのジャーマンスタイルを採っているため、寝かせる行程が細かく、回数も多いんだそうです。同行して見ていても、温度管理、休憩時間、温度管理……という繰り返しで、あっという間にメモが増えていきました。
一言で書けば「加熱」ですが、発酵に必要な栄養素や糖分をつくるために細かい温度調整を繰り返し、時間をかけているわけです。2時間の間にいろんなことを効率的に、最適な形でこなすために、時間と温度のレシピがあるんですね。

初めて見ました、噂の「一番搾り麦汁」

ここから麦汁のろ過に入ります。麦汁を寝かせていた釜と隣にある釜、2つの釜を使ってろ過していきます。

最初の作業は写真奥の釜で行われていました。ここからは手前の釜も出番に。

この時、1回目のろ過で採れるのがいわゆる「一番搾り」の麦汁です。濃厚な麦汁で、これだけを使ったビールも有名ですよね。ですが、搾った麦芽にもまだまだ旨味は残っています。そこで、通常はさらにお湯を加えて二番搾り、三番搾りの麦汁を取っていきます。

この段階で麦汁を飲ませてもらったのですが、スッキリした穀物の甘さがあるお味。まさに甘い麦茶です。思っていた以上に甘さがあります。この糖分が発酵のときに酵母のご飯になるんですね。

一番搾りの麦汁。澄んだ金色が美しいです。

今回は「白樺ビート」なので、この段階で白樺の樹液を加えます。白樺の樹液はそのまま飲んだり、コーヒーや紅茶に使ったりする人もいます。ちなみにお味はというと、水とはちょっと違う、不思議な風味を感じますよ。

白樺の樹液を釜に投入!

2時間ほどのろ過が終わったら、今度は煮沸に入ります。雑味となる香りを飛ばし、濃縮する行程です。そして、さらに今回は初めてのチャレンジも。

今までは白樺の樹液を入れるだけでしたが、今年の白樺ビートではさらに風味を出すために、煮沸時に白樺の木を一緒に入れたんです。

この試みは今回が初めて。仕上がりでどんな風味の変化があるかは、出来上がってのお楽しみなんだそうです。出来上がりまでの時間が短く、細かく仕込みを行うビールは、こうしたチャレンジもしやすいお酒といえるのかもしれませんね。

そして、この煮沸の途中で加えられるのがホップ。ビールには欠かせない材料で、独特の苦味や風味を加えてくれる原料です。使うホップによって、味の方向性が全然違ったものになるんです。「白樺ビート」では「ハラタウブラン」と「ザーツスペシャル」という2種類のホップを使っています。

こちらがホップ。

ちなみにホップ、初めて見せてもらったんですが、手にとると非常に強い香りがします。試しにちょっとだけ食べてみると……青臭い! 青々しい香りと苦味です。一言でいうと「草だ」という感じ。でも、確かにビール独特の苦味がここから生まれるというのはわかる気がします。

香りも味も「草」という感じ。

「独特ですね……」と言葉を選んで感想を伝えたところ、「まあ、そのまま食べるものではないですからね」と真っ当なお答えをいただきました。はい。

最後も時間との戦い! 97度から7度へ一気に冷却

仕込み開始から6時間ほど経過した、12時30分ごろ。ようやく煮沸の行程が終わります。別のタンクに麦汁を移し、ホップの残りカスやタンパク質などを遠心分離で取り除いていく行程が始まります。

遠心分離の行程へ。この時点では97度とかなり高温です。

そしてその間に酵母の準備が行われます。ROCKのビールは、ドイツから酵母を輸入しているのですが、酵母は生きているので、つくったビールからも取ることができます。今回もほかのビールづくりで活躍した酵母が使われます。生まれは海外ですが、清里・ROCKで育った酵母たちが使われていると想像すると、なんだか面白いですね。

こちらが酵母。こんな色をしているんですね。

そんな酵母。見た目はコーヒー牛乳のような茶褐色です。これをまず空気と混ぜ合わせて活性化させます。

バケツからバケツへ何度も移すことで空気に触れさせます。

なかなかダイナミックな光景。

そして、酵母の準備をしている間に遠心分離の作業が終わったビールが最後の貯酒タンクへと送られてきます。

最後はタンクへ。これは小さいサイズですが、それでも2,000リットル入ります。

もう仕込みは最終段階といったところですが、この行程も実は重要なポイント。遠心分離の行程が終わた段階で麦汁は97度ほどの高温なのですが、タンクに送るときには7度程度まで温度を下げます。この冷却とタンクへの移動がゆっくりだと雑味が多くなってしまうんだそうです。

遠心分離を開始してから移し替え完了までの理想の時間は1時間以内。一気に冷却し、一気にタンクへ運ぶ必要があるんですね。何しろ97度から7度です。冷却装置もパワフルさが求められます。ROCKでもかなり立派な冷却装置を使っています。この日も無事ちょうど1時間ほどで冷却とタンクへの移動が完了しました。

そして酵母を加え、ようやく仕込みが完了。この時点で時間は13時30分を過ぎていました。あっという間でもありますが、時間とともにいろんな調整、工程を加え、どんどん様子も変わっていくビールの仕込み作業は、知恵の結晶を早送りで見ているような面白さがありました。

タンクに移されたビールの元は、発酵し、熟成し、ビールになっていきます。タイプによっても期間は違いますが、今回仕込んだ「白樺ビート」は4週間ほどで完成の予定です。

そう、早ければちょうどゴールデンウィーク中か、連休明けに飲めるようになるんです。

白樺の木自体を使うという新しいチャレンジもあった今年の「白樺ビート」。登場したらぜひ試してみてください!

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