「大手ビールでたとえればこんな味」という紹介も!
ROCKのクラフトビール・タッチダウンをブルワー・松岡風人が解説します

ROCKの名物といえば、カレーとビール! ROCKは店内に八ヶ岳ブルワリーというビールの醸造所が併設されており、そこで「タッチダウン」というビールをつくっています。ブルワリーでつくったビールをそのまま店内で飲める、ブルーパブレストランなんです。

タッチダウンは、5種類の定番に加え、季節ごとに限定ビールなども。それぞれ個性的な味なのですが、どんなふうに選べばいいかわからないという初めての人もいるでしょう。

今回はそんな人のために、八ヶ岳ブルワリーのヘッドブルワー・松岡風人に、この夏飲めるビールの解説をしてもらいました。まずはタッチダウンのこだわり、さらに各銘柄の特徴を「大手のビールでいうとこんな味」という例えといっしょに紹介してもらっています。最後には、お土産で買って帰ったビールのおいしい注ぎ方も紹介しますよ。

ROCKに遊びに来たときのビール選びの参考にしてみてください!

僕らのビールは“スッピン”のビール

——クラフトビールブームといわれて久しいですけど、そもそもクラフトビールの魅力ってどんなところなんですか?

うちの「タッチダウン」は味わい的には大手に近いですね。ただ、その上で大手にはできないような味がつくれるのがクラフトビールのいいところです。大手だとどうしてもある程度大量に売れて、採算のとれるところを狙わないといけないですから。少量生産のクラフトビールなら、尖ったものも出せるし、プレミアムなこともできる。それと、うちの場合ビアパブでもあるので、フレッシュな状態で飲める。

——鮮度ですか?

八ヶ岳ブルワリーのヘッドブルワー・松岡風人。

そうです。ビールって鮮度が重要で、できたてが一番おいしいんです。時間が経つと空気や光と反応して味が変わってしまうので。樽にしても長くても3日くらいで飲み切っちゃうのがいいですし、本当は1日で空いちゃえばベストです。

——そういう意味ではビールの回転が速い夏の時期は、鮮度の面でもベストな時期といえそうですね。

そうですね。ROCKでも夏は2〜3日でタンクが空になりますから。

——フレッシュといえば「タッチダウン」は瓶ビールも酵母が入ったまま瓶詰めしてるんですよね。

はい。大手の缶ビールや瓶ビールは基本的にろ過や過熱処理で酵母を取り除いています。加熱処理をしていないものは「生ビール」と表記できるので、「生ビール」として販売されていますが、いわゆる「樽生」とは違って基本的に酵母はろ過されています。酵母が入っていないと発酵が進まないので、賞味期限が長くなり、保管や発送も常温でできる。だけど、酵母の独特な香りなんかはなくなってしまうので、味わいはどうしても薄くなります。おいしさでいったら酵母は残した方がいいんです。

瓶の「タッチダウン」はROCKの店内でも販売しています。

——もうひとつの特徴はスタイルですよね。八ヶ岳ブルワリーは誕生から一貫してジャーマンスタイルを基本にしてます。

ジャーマンスタイルってスッピンみたいなビールなんです。ホップでオフフレーバー(イヤな臭い)を隠すことができない。だから、腕が悪いとすごくまずいビールになってしまう。今ビールではIPAと呼ばれるものが流行っています。これはホップが強烈に香る派手な味です。いってみれば厚化粧みたいなスタイルで、それはそれでひとつのおいしさの形でしょう。でも、僕らは糖化こそビールの要だと思ってるんです。麦をデンプンから糖に変えるところこそ大事なんだ、と。

——究極のスッピンビールというわけですね。じゃあ、実際にどんなビールか、解説してもらいましょう。

ピルスナー

【ピルスナーってこんなビール】
・大手でいうなら「一番搾り」や「モルツ」
・タッチダウンの原点にして王道

 

ピルスナーはまさに王道という感じなので、あまりクドクド説明する必要はないですね。普段飲んでいるビールと同じ感覚で飲めます。ただ、それをプレミアムな味わいにしています。モルト感も上だし、酵母を取っていないから旨みも上で濃厚。大手のビールを飲み慣れている人に、プレミアムにするとこう、というのを味わってもらえれば。
どちらかといえば魚料理みたいにさっぱりしたものと相性がいいでしょう。

ヴァイス

【ヴァイスってこんなビール】
・大手でいうなら「ヱビス 華みやび」
・ドイツでは朝飲むビールとしても人気

 

ヴァイスというのはひとつのスタイルの名前です。小麦を使った白ビール。味わいはあるけど、嗜むというよりグビグビ飲めちゃうさわやかなビールですね。大手でいえば「ヱビス 華みやび」。これもヴァイススタイルです。ちなみに小麦の使用量が50%以上のものは「ヴァイツェン」、50%未満のものを「ヴァイス」と呼びます。小麦が混ざっているから小麦粉と同じように白くなるんです。そして、味わい的にもちょっと独特の酸味が出ます。日本だとビールというと苦みとかキレを楽しむものというイメージが強いですが、世界的にはもっといろんな味わいがあるんです。酸味が強いビールというのはアメリカなんかではけっこう流行ってるんです。日本はまだそういうものが定着していない。大手メーカーもなかなか出さないですしね。
料理と合わせるならお肉でしょうか。フルーティなので、繊細な魚料理なんかより、肉料理の方が相性がいい。特に香草、ハーブを使った料理なんかはバッチリです。白ビールってハーブを使ったものも多いんです。たとえば、日本でも人気のベルギーホワイト「ヒューガルデン ホワイト」は、コリアンダーとかオレンジピールとか入れたりしてます。だから、そういうハーブ系料理とはすごく相性がいい。東南アジア系の料理なんかもいいでしょうね。

ROCK店内のストアで販売しているソーセージなどとも好相性。

それとこれはピルスナーもそうですが、淡色系のビールは、ミュンヘナーとかニュルンベルガーみたいな白いソーセージなんかと合わせてさっぱり食べるのもオススメです。ドイツだとミュンヘナーって朝食べるソーセージなんですが、それに合わせてヴァイスを飲んだりします。なので、どちらかというと朝飲まれているビールだったりするんです。この夏、ROCKは朝9時30分から営業していたりするので朝ご飯としてミュンヘナーとヴァイスなんていうのもいいですよ。

清里ラガー

【清里ラガーってこんなビール】
・大手でいえば「黒ラベル」
・お米を使った口当たりの軽いピルスナー

 

ラガーっていうのはそもそも「下面発酵」のビールのことです。ピルスナーみたいなスタイルもこのラガーの一種です。「清里ラガー」もスタイルとしてはピルスナーですね。副原料としてお米が入っています。日本人ってお米の香りが好きだと思うんです。だから、「黒ラベル」みたいにお米の香りのあるビールが好きな人も多い。
お米のお酒っていうと日本酒のイメージが強いかもしれないですが、ビールでお米を使うと飲み味が軽くなります。モルト感が減るので。大手で麦芽100%っていうと「ヱビスビール」が有名ですが、ずっとヱビスだけ飲んでると重く感じたりするでしょう? お米が混じったビールの方がライトなんです。
穀物香みたいなものがあるので、お米料理、たとえばチャーハンとかそういうものとも相性がいいでしょうか。パンとか穀物系のものとマッチするんじゃないかと。同じピルスナースタイルである「ピルスナー」とは、好みで選んでもらえばいいと思います。「一番搾り」なんかが好きなら「ピルスナー」、「黒ラベル」が好きなら「清里ラガー」を試してみてください。

デュンケル

【デュンケルってこんなビール】
・大手でいうなら「琥珀ヱビス」
・重めの料理とマッチ

 

味わいも重めの濃色系ビールです。濃色系って見た目どおり、重めの料理と合います。ソーセージでいったら白いものより茶色いものの方がマッチしますね。そのほかにも、たとえばスペアリブとかズシッとヘビーな肉料理と相性がいいです。脂がガツッとあって、ちょっと香ばしいものなんかとよく合うでしょうね。ROCKの料理でも合うものは多いと思います。
グビグビ飲むようなタイプではないので、2杯目、3杯目くらいからゆっくり飲むのがいいでしょうね。

プレミアム ロック・ボック

【プレミアム ロック・ボックってこんなビール】
・大手でいうなら……該当なし!
・ブランデーのような感覚で楽しむ濃厚系

 

八ヶ岳ブルワリーのビールのなかでも段違いに濃厚なビールです。濃色系なので方向性はデュンケルと似ていますが、さらに濃い、重いビールです。ここまでのものは大手ではちょっとないと思います。
やっぱり重めのガッツリ系料理と合いますが、特に味噌とか醤油みたいな発酵系の味と相性がいいです。ロックボックって醤油のような熟成香がちょっとあるんですよね。そういう香りが発酵系の味とよく合うんです。豚肉の味噌漬けとかいいんじゃないですか? 八ヶ岳周辺は味噌蔵なんかも多いので、お土産でそういうものといっしょに買って帰るのもオススメです。
飲み方としても嗜む感じでゆっくり飲んでもらうといいでしょう。アルコール度数も7%と高いですしね。加えて、ゆっくり飲んだ方が味わいも楽しめます。数十分かけてゆっくり飲むと、最初は冷たいビールが徐々に常温に近づいてきます。冷たいと舌が鈍感になるので、のどごしと苦みくらいしか感じないんですが、5度から10度くらいになってくると熟成香の味わい深さとか、麦芽の濃厚な香りがよくわかるようになります。時間をかけて飲むことで最初とは別の味わいが見えてきますよ。
そういう意味でも最初は淡色系のビールで喉を潤してから、〆の一杯みたいな感じで飲んでもらうのがいいんじゃないでしょうか。ブランデーやウイスキーみたいな感覚でどうぞ。

ファーストダウン

【ファーストダウンってこんなビール】
・大手でいうなら「スーパードライ」
・「一杯目専用」としてつくられたビール

 

「一杯目専用」というキャッチコピーがすべてという感じですね(笑)。イメージ的には「スーパードライ」の上位互換という感じでつくりました。「スーパードライ」同様キレ味とのどごしにこだわった味ですが、少し濃厚さがあります。
基本はラガータイプであり、ピルスナースタイル。副原料としてお米も使っているので、うちだと「清里ラガー」に近いものですが、「ファーストダウン」はよりスッキリとした味わいを目指しています。具体的には酵母がガンガン糖分を食べるようなプログラムにしてある。つまり、甘みが残らないようなプログラムなんです。
それと、実はこれスッキリしてるけどホップの量はすごく多いんです。「清里ラガー」の3倍くらい使っている。一般的にホップを増やすと苦みが増したり、華やかさが加わるものなんですが、「ファーストダウン」はスッキリをめざしたものなので苦みはあまり必要がない。だけど、ホップがきちんと香るようにはしたかった。なので、苦みの少ないアロマ系のホップを使って、さらに煮沸時間も短くして苦みを抑えています。その上で香りを出すためにはたくさんホップを使う必要があったんです。だから、淡色系でスッキリテイストですが、うちのビールのなかでもプレミアムな一杯なんですよ。

HOKUTO

【HOKUTOってこんなビール】
・北杜市産ホップだけを使ったビール
・期間限定! フレッシュな一杯

 

「HOKUTO」はレギュラーでなく、この夏つくった限定ビールです。コンセプトは「北杜市産ホップ100%のビール」。ROCKのある山梨県北杜市のホップ農家さんがつくったホップだけを使っています。
実はつくり方自体は「ピルスナー」とまったく同じなんです。違うのはホップだけ。でも、ホップが違うだけで全然違う味になっています。アロマ系ホップを使っているので、「ピルスナー」より少しフローラルで苦みが少ないです。しいて大手でいうなら「ハートランド」系ですかね。チェコのピルスナーに近いイメージです。チェコには「ウルケル」という、ピルスナーの元祖と呼ばれるチェコを代表するビールがあるんですが、それに近い。
限定ビールで、在庫的に8月中くらいにはなくなってしまうと思うので、この夏遊びに来る方にはぜひ楽しんでもらいたいです。ただ、今後も北杜市産ホップを使ったビールはつくっていきたいとは思っています。ビールは鮮度が大事といいましたが、ホップも鮮度がすごく重要なんです。一度開封して空気に触れるとどんどん成分が揮発しますし、輸送する時間も短い方がいい。僕らは普段はドイツから取り寄せたホップを使っていますが、地元の北杜市でつくったホップなら輸送時間は圧倒的に短くなりますから、こんないいことはないんです。その意味でもこれからも北杜市産ホップを使ったビールは出していきたいですね。

お土産で買ったビールをもっとおいしく飲む注ぎ方

最後にビールを飲むときのちょっとしたポイントを紹介します。ビールは注ぎ方で味が変わってくるんです。

松岡はビールづくりだけでなく、ビールを注ぐ名人ともいわれています。

ポイントは泡。多くの人はビールを注ぐとき泡が多くなってしまうと失敗だと考えるのではないでしょうか。でも、実は泡は重要なものなんです。

ビールはそのままだと炭酸ガスや旨みが表面から抜けていきます。それを防いでくれるのが泡。クリーミーな泡をつくることで、それが蓋になり炭酸や旨みを閉じ込めてくれるんです。

まずはビールを上から注いで泡をつくります。最初は8割くらい泡になるように注ぐのがポイントです。その状態で1分ほど待つと、泡が徐々に減ってきます。このときできた泡は消えないクリーミーなものになります。

その状態で今度は、側面を通すようにゆっくりとビールを注ぎます。そこでまたしばらく待ち、最後にもう一度グラスに注げば完成です。2〜3分かかりますが、その分確実においしいビールを楽しめますよ。

また、グラスによっても味や口当たりが変わります。実は最近、萌木の村にある焼き物工房・萌木窯でビール専用のグラスがつくられています。試作品がすでにROCKにも到着しているのですが、グラス自体にある気泡のおかげか、ビールの角が取れてクリーミーな味わいになるとスタッフからも好評なんですよ。

萌木窯特製のビールグラス。ビール好きスタッフからも好評です!

萌木窯のグラスは7月下旬ごろから販売開始予定となっています。こちらもビールといっしょにお土産にいかがでしょう?

前の投稿
「キッチンカーって便利なだけじゃなくて…
戻る
次の投稿
4万8000RTでニュースにもなったツイートは…

ROCK MAGAZINE ROCK MAGAZINE