たくさんのスタッフが働くROCKでも、ある意味生粋のROCK育ちというべきスタッフが舩木章子。ROCKのホールの顔のひとり、舩木良の娘で、創業者・舩木上次の姪に当たるスタッフです。
ROCK店内のショップやレジにいることが多い彼女を見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。
テキパキと店内を動く彼女ですが、実はシャイな一面の持ち主だったりもする彼女。ROCK生まれ、ROCK育ちともいえる舩木章子に改めて話を聞きました。
小さいころから家の一部として遊んだROCK
——章子さんの場合、ROCKとの出会いを聞くのもなんだかおかしいですよね。
出会いも何もという感じですね(笑)。生まれたときからあって、小学生、中学生くらいから家の手伝いという感じで働いていたので。初代のROCKがあったころはまだ小さかったので父のところに遊びに来ていたという感覚でした。だから、良さんがエッセンガルテンにいたときはエッセンガルテン、メリーゴーラウンドカフェにいたときはメリーゴーラウンドカフェに遊びに行っていました。その頃はまだ小さいので、たとえばメリーゴーラウンドのスタートスイッチを押すとかそれくらいのことしかやっていませんでした。お手伝いという感じになったのはブルワリー併設の2代目ROCKができてからですね。ちょっとレジに立ったりとか。
——中学生でレジですか。
当時は「あら、お手伝い? 偉いね」なんていわれてました(笑)。あとは当時組み立て式だったビールの箱をずっと組み立てたり。当たり前にお店があって、手伝うのも当たり前という感覚でしたね。
——おうちの一部という感じですね。
そうです。小さいころから手伝っていたし、それでお小遣いをもらったりもしたので、よけいにやろうという気に(笑)。
——「お手伝い」でなく「仕事」として働きはじめたのはいつなんですか?
高校卒業後にドッグトレーニングの専門学校に通って、そこを出たあとですね。もともと犬が好きで家でも飼っているんですが、大型犬も飼いたくて。大型犬の場合ちゃんと訓練しないといけないといわれていたんですが、訓練所に行かせるのももったいないなって思ったんです。なら自分で訓練できるようになればいいやっていう安易な発想で犬の訓練士をめざすことにしたんです(笑)。でも、学校でペットショップなんかにも研修に行って思ったんですが、私の場合犬自体ももちろん好きなんですけど、いっしょに過ごしたいのは自分の犬なんです。訓練士とかになったら、自分の犬を家においてほかの犬の相手をすることになるじゃないですか。
——本末転倒なわけですね(笑)。
そうなんです(笑)。ほかの犬もかわいいんですけど、やっぱり自分の犬が一番かわいいので……。だったら、家の近くで働く方がいい。それで、特に「これをやりたい!」という仕事もなかったので、「ならROCKで働きなよ」といわれて面接してもらって働き始めました。萌木の村の場合、働き方もある程度融通が利くというのもありますが、大きな広場もあるじゃないですか。あそこで犬と遊べるのがいいんです。仕事中はお留守番してもらっていますが、仕事の前後、人のあまりいない朝晩を狙ってお散歩に来てます。ひたすらボール遊びをしたり。
ROCKと一体になった家庭
——本当に自然に働き始めたという感じですが、逆に家の仕事、家族といっしょの職場だからこそほかで働きたいという気持ちはなかったんですか?
今気まずさを感じたりすることはあります(笑)。私はショップやレジにいることが多いんですが、良さんも同じところにいることが多い。だから、ほかのところに移りたいと思ったりすることはあります。
——お父さんを改めて「良さん」と呼ぶのもちょっと照れますよね、なんだか。
違和感というか抵抗がありました(笑)。お客さんの前ではもちろん「良さん」ですけど、バックヤードなんかでは今でもあまり呼ばないです。昔から「オッちゃん」って呼んでるので、それで。「お父さん」とはあまり呼んだことがないんですよね。
——じゃあなおさらほかのところで働くということになってもおかしくなさそうですが。
ただうちの場合、家とROCKというのがほとんど一体なんです。ROCKの営業時間が長かったりもするので、そもそも家にいる時間が少ない。家に帰ったら家族の顔になるという感じでもなく、そんなに顔を合わせることもないんです。話題も仕事の延長線上という感覚なんですよね。たとえば、祖母の誕生日とかで社長(叔父に当たる舩木上次)の家族なんかも含めて、一家が集まっても結局仕事の話をしていたりする。普通の家族というんでなく、どこかで仕事仲間という感覚がいつもあるんです。どこで会っても「おはようございます」「お疲れ様です」という関係だったり。
——なるほど。もともとROCKと家庭の境があまりないんですね。
はい。私自身もいつも誰かといっしょにいるというより、ひとりの時間を大事にしたいので、家ではそれほどいっしょにいないという今の感じが合ってるんです。そんな感じなので、家でそれほどずっと顔を合わせるわけではないから、職場ではいっしょなのもギリギリいいかな、と(笑)。
——上次さんの話も出ましたが、叔父としての上次さんというのはどういう感じなんですか?
近いようで遠い存在ですね。叔父さんではあるんですけど、「叔父さん」と呼んだことはないし……。ただ、たぶんほかのスタッフよりは気軽に話しかけられる立場じゃないかなとは思っています。社長自身も「自分に何か注意するところがあればいってくれ」っていうタイプじゃないですか。だから、お客さんに怒られたことや注意されたことを直接伝えたこともあるし、「そうか、ありがとう!」っていってくれたり。怖いと思ったこともないし、私に対してもああいうキャラですから。あと、社長の家の犬のお世話を頼まれていて、家に寄っていたりもするので付き合いやすくなりましたね。専門学校に行ったのも無駄じゃなかったなと思います。ただ、本当「叔父さん」という感覚じゃないですね(笑)。
「レジの顔」は実はシャイ?
——萌木の村にはいろいろな施設や職場もありますが、ROCKというのは自分の希望だったんですか?
そう……だった気がします。ずっと手伝っていて、ROCKにいたのでそんなにいろいろ教わらなくても、入ってすぐある程度働けるだろう、と。ただ、接客自体がすごく好きかといわれると、どうなんだろうとは(笑)。
——え、そうなんですか?
もちろんお客さんのことに気を配ったり、サービスをしたり対応するというのは昔からやっているし、苦ではないんですが、たとえばROCKのホールスタッフの場合、よくお客さんとお話をすることもあるじゃないですか。それが好きという人も多い。だけど、私は面白い話ができるわけでもないし、話術もないですから。人と目を合わせて話すみたいなことができるようになったのもここ何年かなので(笑)。
——なんだか意外です。
そういう意味でもレジやショップというのは合っているとは思います。ショップの場合は商品の説明とかが中心なので。そういうことは普通に楽しいんです。説明して気に入ってもらって買っていただくと嬉しい。それと、ショップってずっといろんな作業があるんです。お客さんの対応ももちろんですが、商品の陳列もあるし、ギフトの発送もある。「目の前にやることがある!」っていう状態が好きなんです。それをどういう順番で、どういうふうにこなせばいいかというのを考えて、実践していくのがすごく楽しいんです。
——黙々と作業をするというのが好きなタイプなんですね。
だと思います。最近はホールの方にも出ることがあるんですが、片付けるテーブルがいくつかあったりすると「よし、仕事がある!」って感じで(笑)。料理の提供なんかも真っ先にやりたくなる。ずっと動いていたいんですね。だから、実は洗い場がすごく好きだったりするんです。洗い物がたくさんあると「仕事がたくさんある!」ってなるので(笑)。
——仕事を組み立ててこなす喜びというのが好きなんですね。
そうです。そういう満足感を味わえるのがROCKの楽しさですね。接客が本当に好きで得意なスタッフはたくさんいるので、そういう人にお話をしてもらって、その間に私はタスクみたいなものを片付けていこうと思っています。
——接客は苦手といっていますが、お話を聞いていると接客が染みついているという感じはします。慣れていない人って、まずテーブルが片付いていないこととか、料理が出されていること、お客さんのことがなかなか見えないと思うんです。
そういうのは確かに染みついていますね。常に周囲に気を配っていないと、という感覚はあります。
——そういう部分はまさに「ROCKの子」という印象です。
料理長に“叩き直された”中学時代の経験
——長年ROCKに親しんでいるわけですが、向き合い方が変わったという経験は何かありますか?
変わったというわけじゃないですけど、今でも忘れられないのは中学生くらいのときに厨房のお手伝いをしたときのことですね。シルバーを磨くのを手伝っていたことがあるんですけど、肘をついて磨いていたら当時の料理長に「仕事中に肘をつくんじゃねえ!」って怒られて。他人から怒られたのって初めてくらいの経験で、それから厨房に入るのがイヤになりました(笑)。今思い出しても「クソ!」と思うんですけど、でも、いわれたことはずっと覚えていて。「あ、仕事中はちゃんとしなきゃいけないんだ」ってシャキッとさせられた瞬間だったと思います。それ以来、誰かが見ていなくてもちゃんとしなきゃいけないんだと思うようになりました。叩き直された経験ですね。
——ROCKというお店が変わったと感じることがありますか?
やっぱり(現総支配人で萌木の村取締役の)三上くんや(ホールスタッフの)武藤くんたちが入ってきたのは大きかったと思います。ROCKって今もですが、すごく曖昧なまま成り立っている部分が多いんです。それぞれのスタッフの常識や判断にすべて任せている部分がある。そういう自由さがROCKらしさであり、いいところでもあると思うんですが、ちゃんと仕組みができていた方がいい部分もある。たとえば、忙しくてスタッフも多い日には武藤くんが「誰々は水の提供、誰々は料理の提供をお願いね」って感じで指示を出してくれる。そういうことって今まであまりなかったので。三上くんや武藤くんみたいな若いけどしっかりしている人たちが仕組み的な部分を固めていって、みんなを引っ張ってくれているのはすごくありがたいです。
——これだけの規模だとそういうものはすごく重要ですよね。
ただ、ルールや仕組みばかりになってもROCKの魅力はなくなってしまうとは思っています。その上で自由でもあるというのがROCKのよさなのかな、と。たとえば今、マシュマロを自由に焼いてくださいって置いてあったりとか、そういう雰囲気を含めて緩やかな部分がいいところだと思うので。そういうルールや仕組みづくり自体は、私は得意じゃないので申し訳なさもあるんですが、「こういう困ったことがあった」「不満がある」という声を三上くんに伝えたりする役割はできるのかなと思っています。そういう形でお店に貢献したいですね。
——今後ROCKのこんなところが変わっていけばいいというところはありますか?
全員がなるべくマルチに働けるようになったらいいなと思っています。スタッフはたくさんいるけど、「この人以外にできない」ってことがけっこうあるんです。たとえば、厨房側で人が足りなくてもホールのスタッフでは手伝えなかったり、ショップが忙しいんだけど商品説明ができる人は少なかったりとか。誰が入っても問題なく動けるようになると、お店がもっとスムーズに回るようになる。だから、担当の持ち場以外のこともみんながある程度できるようになっていかないといけないなと思っています。
——お店のいろんなところをよく見ているんだな、というのがわかるお話でした。ありがとうございました!