冬の八ヶ岳ではすっかり恒例となっている「寒いほどお得フェア」が今年も1月12日からスタートしました。
このフェアはその名のとおり、当日の気温が低ければ低いほど参加店の対象商品が割引になるというもので、最大でなんと50%オフになるんです。
ROCKももちろんこのフェアに参加中。「ROCKビーフカレー」をはじめとしたカレー全品に加え、直前で急遽ビールを含むドリンクも全品フェア対象に加わりました。
寒くてつい外に出たくなくなる季節を盛り上げてくれる冬の一大イベント。今回は清里のペンション・ブルーイングリーンのオーナーであり、寒いほどお得フェア実行委員会会長を務める、清里振興会会長の小林勉さんをお招きし、フェアについて、清里についてお話を聞きました。
3〜4軒から始まった冬の名物フェア
三上 今年も寒いほどお得フェア2019が始まりました。僕はROCKで働くまでは知らなかったんですけど、もう18年もやっているそうですね。
小林 そう、1年目の参加店は3〜4軒程度だったかな。次の年から清里飲食店組合でやるようになって、20店舗とか参加するようになった。それで数年続けたんだけど、だんだん組合で運営するのも大変になってきて、清里観光振興会で運営するようになって、参加店舗も増えていった。45店舗くらいになったのかな? 八ヶ岳観光圏でやろうということになったのが8年くらい前だったか。そのときエリアも広くなって、最大で85店舗前後が参加するフェアになった。
三上 今年は77店舗でしたよね。
小林 そうだね。
三上 今だと毎年すごくたくさんのお客さんが来てくれますけど、ここまで盛り上がるようになったのはいつからなんですか? やっぱりテレビとかで取り上げられたのがきっかけですか?
小林 NHKで取り上げられたことがあってね。10年くらい前だったかな? 開催初日に生放送で紹介されたんですよ。それからいろんなメディアが取り上げるようになりましたね。NHKも3回くらい来たかな?
三上 始めた当初から割引率は変わっていないんですか?
小林 多少の変化はあったけど、最大50%オフっていうのは変わらない。最初のころはこのあたりにケーブルテレビがあってね。そこでお天気のチャンネルがあって、いろんな場所の気温もわかったから、その番組の発表する清里駅前の気温を基準にしてたんだ。
三上 じゃあ、最初は本当に地元の人向けのフェアだったんですね。
小林 そうそう。地元の人がテレビを見て「今日は寒いぞ!」ってお店に来る感じだった。
三上 やっぱり当時から50%オフになったりすると反響は大きかったですか?
小林 今のROCKなんかもすごいけど、当時もすごかったよ。お店によっては1時間半待ちとかになってね。
三上 実際すごくありがたいんです。もちろん割引だから価格面でのお店の負担もあるけど、この時期ってそもそもお客さんが少ないですから。寒得の期間以外って、たとえば平日だとビックリするくらい暇になったりする。寒得がなかったらと思うと怖いですよ。
小林 やっぱり清里とか八ヶ岳って冬は人が少ないからね。寒くなると人も来ないし、地元の人もあまり外に出なくなっちゃう。だからこそ、始めたわけです。
三上 流行る構造になってますよね。ちゃんと逆説になってる。「寒いから外に出ない」を「寒いからこそ遊びに行く」に変えた。すごいフェアですよ。
小林 だけど、長く続いている分、疲弊しているところも出てはいる。お客さんがたくさん来てくれるわけだけど、個人経営みたいなお店だと来てくれたお客さんをさばききれずに疲れてしまうという声もあったり。50%オフだと原価ギリギリってお店もあるしね。
三上 でも、そもそもお客さんが来てくれて盛り上がらなかったら意味がないですよね。毎日50%オフでもっと爆発的に流行ればいいんじゃないのかななんて思ったりしますが理想と現実のギャップですね。
小林 そうなんだよ。お客さんが来ない方がいいなんて話はないわけだから。本当に大変だからということで参加をやめたお店もあるわけだけど、やめるとお客さんが来なくてまた戻ってくるということもよくある。
三上 お客さんが来ないことには始まらないですからね。
お店同士の連携で寒得はもっと楽しくなる
小林 一方で新しく参加するようになって、すごくうまくいっているお店もあるんです。普段はなかなか手の出ないような値段のメニューを出しているお店なんかも反応がいいですよね。カントリーキッチン ロビンさんの「1ポンドステーキ」とか。
三上 「リブロースステーキセット」が割引対象なんですよね。1ポンドだと6,400円でしたっけ。
小林 それが最大で半額だからね。インパクトが大きい。昔はもっと価格の安いものを割引対象にしているお店も多かったんだよ。300円とか400円のサイドメニューとか。でも、それじゃわざわざ行こうってならないよね。たとえばおそば屋さんならやっぱりおそばを食べに来るわけでしょ? そうしたらおそばが割引にならなきゃ行こうという人は増えない。逆にちょっと高いメニューなんかは、割引が「食べてみようかな」というきっかけになる。ROCKなんかもうまいよね。すごくたくさんお客さん来るでしょう?
三上 たくさん来てくれます。このエリアって基本的にピークは夏ですけど、真夏のお盆シーズンより多くカレーが出ることがありますから。
小林 どれくらい出るの?
三上 1日で1,000皿近く出たことありますね。
小林 ROCKの場合はカレーっていうのも相性いいんだよね。もともと看板メニューだからっていうのはもちろんあるけど、カレーってオペレーションがシンプルでしょ?
三上 そうですね。1分以内で盛り付け完成できる。本当にうまくフィットしてます。先人達に感謝ですね。
小林 価格としても、ちょうどいいんだと思う。たとえばプレーンな「ROCKビーフカレー」が税込みで1,080円とかでしょ? 半額で540円になるけど、それくらいの値段だとお客さんもせっかくならもう少し何か食べようって気持ちになる人が多いよね。「ちょっとしたものをもう1品」という行動につながりやすい。そういううまくいっているお店を参考にすれば、もっとフェアをうまく使えると思うんですよね。
三上 うちでももっと面白いことができないかって考えるんですけどね。「50%オフ」というのを超えるインパクトのアイディアはなかなか思い付かなくて。でも、勉さんのペンションでやっているサービスは面白いと思ってます。
小林 ああ、当日宿泊する人への?
三上 そうです。宿泊施設の場合、基本的には当日割引じゃなくて、次回使える割引券を渡す形ですけど、事前予約でなく、当日予約の場合はその日の宿泊料金を割引にするじゃないですか。
小林 そう。それで、当日予約の場合は近くのお店とかなら迎えに行きますよっていうのをね。宿泊っていうと旅行のときに使う人が多いけど、たとえば寒得を使って食事して、お酒を飲んで遅くなったら、泊まっていくのも手じゃないですか。うちは今年素泊まりが割引対象で、バストイレなしの部屋なら6,000円。半額の日なら3,000円で泊まってもらえる。で、翌日は車のあるところまで送っていくから、それで会社に行ったりすればいいでしょ?
三上 タクシーより安くすんだりしますしね。そもそもこのあたりは夜ちょっと遅くなるとタクシーが使えなくなってしまう。そもそも呼べなかったり、呼べても迎車分の料金がかかる上に時間もかかったり。
小林 だったら泊まってゆっくり楽しんでほしいじゃない。清里はフェア参加店も多いし、そうやってうまく使っていろんな形で楽しんでほしいんです。もっといえば、地元周辺の人だけでなく、東京で割引率をチェックして「今日安いから食べに行ってそのまま泊まろう!」って使い方だってできる。
三上 首都圏から2時間ちょっとですもんね。
小林 そう。そういうところまでいければいいなと思ってるんだよね。
地域に安心感を与える場所の必要性
小林 フェアに限らない話でいうと、ROCKにはぜひお願いしたいというか、頑張ってほしいことがあるんだよね。
三上 なんですか?
小林 この辺って夜遅い時間に営業している飲食店が少ないでしょ? 20時過ぎるころには選択肢が少なくなってる。だから、ROCKが23時くらいまでやってくれていたらっていつも思うんだよね。
三上 なるほど!もちろん通年でですよね?
小林 そう。たとえばうちだと、海外から来るお客さんもいたりするんだけど、そういう人で到着時間が遅めの時間だったりすることもあるんだよ。そうすると、食事ができるところを案内できない。
三上 宿泊施設だとそういうニーズありますよね。
小林 宿泊に限らずだと思うんだよ。夜遅い時間にやっているお店があるって、地域にとって安心感になる。ちょっとごはん食べたり、お酒飲んだりして、「もう1軒行こうよ」なんてこともできるじゃない。そういうお店が今ないんだよね。ROCKがやってくれると地域にとってすごく嬉しい。まあ、そう言われてもって話だと思うけど(笑)。
三上 夜遅くの営業ってお客さんにも言われたりするんですけど、実際に常時どれくらい需要があるかっていう話になるとなかなか厳しかったりもするんですよね。ただ、「遅くまでやっているお店がないから需要も減る」「需要が減ってるから営業するお店もない」という部分もあるだろうし、ちょっと何かきっかけがあれば変われると思うんですよね。
小林 変わる必要っていうのは今すごく感じてる。それは清里自体がね。つまり、清里のブランディングをもう一度やり直さなきゃいけないタイミングに来てると思うんだよ。
三上 そうですね。
小林 じゃあどういうブランドにするかっていう話なんだけど、考えていくと、やっぱり清里は開拓の街でしょ? もちろん今までも「開拓の街」「フロンティアの街」っていうのは言ってきたけど、今までって清里開拓の父であるポール・ラッシュ博士がアメリカ人だからっていうのもあって何となくそう言ってきた部分があると思う。でも、清里って100年前には誰も住んでいなかった土地で、たかだか80年くらいで街になった場所なんだよね。そういう歴史を踏まえてもう一度ブランディングする必要があると思うし、宣言し直さないといけない。
三上 開拓の街というのは、過去の歴史だけじゃなく、これからも清里の核にしていかなければならないところですよね。たとえば、今だったら新しいテクノロジーやクリエイティブでまた変わっていけるだろうし、ポール・スミザーさんのいうように微生物の視点から自然を考えるというのも、これからの時代の新しい“開拓”になる。そういう意味での開拓というのは面白いと思っています。
遺産であり開拓の途中という状態が見られる街
小林 清里は歴史が浅いからこそ、どんどん変わっていける。今駅前はバブルの跡地という感じで寂れているけど、それもある意味では面白い遺産だと思っているんだよね。バブルの時代というのがどれだけ狂乱の時代だったかというのがわかる。
三上 自然に惹かれてきたはずなのにそうでないものをみんながやった。駅前は面白い遺産でもありますよね。
小林 同時にスクラップ&ビルドの途中の状態でもある。遺産であり、変化の途中でもあるんだよね。そういうことが、歴史の古い街ではなかなかできないけど、ここはできるでしょ? そういう開拓の歴史と今というのを、ちゃんと体験として見せてあげないといけないよね。旅行に来る人って、自分の日常生活にはないものを見に来てる。自分の生活と同じものならわざわざ見に来ないでしょ? ヨーロッパの城郭都市なんかは、中に入ると外とは全然違う文化になっている。だから楽しいわけ。清里もそういう開拓の文化が見える街にならないといけないんじゃないかな。それは誰かひとりではできない。だから、ROCKも含めていろんな事業者が同じ席について話をしないといけないなと思ってるんだけど。
三上 事業所ごとに横のつながりが更にできるといいですよね。特に若い人のつながりは少ない。
小林 若い人が少ないんだよ。俺がまだ「若い」って言われちゃうくらいだから。ROCKみたいに若い人が多いお店は珍しい。
三上 もっと若い人のつながりをつくりたいという話自体は皆さん賛成してくれるんですけどね。
小林 「地域のために」っていうのを考えられる人となるとまたハードルも上がるしね。地元を盛り上げるっていうのは自分の生活をどうにかするっていうののもっと上位の概念だから、そこに行き着く人って少ない。みんな自分の生活で精一杯だろうし。だから、「もっと楽しくしていこうよ!」っていうところから入れたらいいよね。
三上 そうですね。だからこそ、このROCK MAGAZINEみたいなことやったり、楽しいことを発信していきたいと思ってるんです。僕自身は清里の歴史ってすごく面白いと思ってるし、伝えていきたいと思っているんですけど、いきなりみんなに広がってはいかないですからね。一歩一歩ですよね。
小林 歴史を知らない人も多いしね。俺だってまだまだ知らないことはたくさんある。
三上 清里は十分資源がある街だと思っているので、本当にもうちょっと、ほんの少しのきっかけで変われると思っています。うまくつながりを作っていきたいですね。今日は本当にありがとうございました!
【ROCKも参加中! 寒いほどお得フェア2019は2月17日まで!】
公式サイト:https://tenkuhaku.com/samutoku/