今年5月、ROCK総支配人の三上浩太がアメリカを旅してきました。ホテルなども事前に決めないまま現地へ行き、カリフォルニアやサンディエゴ、コロラド、ポートランドなど、17日間にわたっていろんな場所を見てきた三上。
なかでも、最初に足を運んだサンフランシスコでの経験は強烈な印象を残したそうです。シリコンバレーの活気、西海岸特有の文化など、サンフランシスコはアメリカのなかでも独特な空気を持つ街。今回はそんな三上のアメリカレポをお届けします。
新しい「世界の中心」サンフランシスコへ!
今回アメリカへ行こうと思った最大の理由は、やはり萌木の村を今後どうしていくか、どういう方向に進んでいけばいいかという答えを求めていたということです。取締役という立場になり、今まで以上にROCKや萌木の村についていろんな形で意見を言えるようになったわけですが、火事からの再建以後、怒濤のような毎日を過ごすなかで、まだ自分のなかで消化しきれていないことがたくさんあるのを感じていました。
そんなときにまとまった休みをもらうことになり、「ここしかない!」ということでアメリカへ行ってきました。
最初に足を運んだサンフランシスコは、今回の旅でも特に行きたいと思っていた街でした。サンフランシスコのあるカリフォルニアは、音楽と密接に関係する西海岸カルチャーの発信地。音楽好きの僕にとってはずっと憧れの街でした。さらに現在はそこにシリコンバレーを中心にしたテクノロジーの発信地という側面もあります。
「世界の中心がここになりつつある」。そんな感覚から、次に海外に行くなら絶対にここと決めていたんです。
山梨からサンフランシスコへ渡り起業した2人の同級生
シリコンバレーといったらAppleやGoogleなど、世界的なIT企業が数多く存在することで知られています。日本では「サンフランシスコ=シリコンバレー」というイメージも強いですが、実は現在では少し違っていて、シリコンバレーは主にテクノロジーや莫大な資金があって、ハード面をつくる場所という感じになっています。対して、サンフランシスコ市内はアートや芸術、音楽などが集まる“哲学”を重視する街。そして、起業をめざす多くの人が集まる場所でもあります。
実際、サンフランシスコで起業した山梨出身の同級生もいます。ひとりはRamen HeroというラーメンのECサイトで起業したHiro Hasegawaさん。もうひとりは、Anyplaceという起業家向けのAirbnbのようなサービスを展開している内藤聡さんです。
Ramen Heroは昨年3月にスタートしたサービス。アメリカでは日本に比べてラーメンの値段が高く、1杯20ドル以上するのが当たり前だったりします。しかも、個人的にはあまりおいしいと思えるお店が多くない。だからこそ、「本物のラーメンを届けたい」ということで始まったのがRamen Heroなんです。現在ではカリフォルニア全土まで広がっており、今後はアメリカ全土にサービスを行き渡らせることを目標にしています。
また、起業家が集まることで賃貸の価格が高騰しているのもサンフランシスコの現在の課題。ワンルームで1か月40万円にもなる部屋もあるくらいです。そこを解決するためのサービスがAnyplace。稼働していないホテルの部屋などを少し安価で貸し出し、お金はないけど夢はあるという人たちがここでプロダクトをつくれる環境を提供するというものです。こちらもすでにカリフォルニア全土やニューヨークに広がっています。
この2人とはSNSで知り合い、機会があれば会いたいと思っていました。今回の旅でようやく会うことができました。
「たくさん失敗してるやつこそ成功するんじゃないか」という期待
2人の同級生起業家と話したのは、主に山梨県人同士のたわいもない話でしたが、だからこそ僕もつい“勘違い”してしまいました。あまりに普通なので「俺も起業できるんじゃないか」という“勘違い”です。
ただ、この“勘違い”させる空気はサンフランシスコ、シリコンバレーの現在の原動力のひとつだと感じています。ここでは起業で大成功したような人たち、莫大な資金を持つ投資家が普通にその辺を歩いています。だから、いろんな人が「俺でもできるんじゃないか」と“勘違い”できる空気が街全体にあるのです。
そして、それを後押しする環境や文化も揃っているのがサンフランシスコです。日本とは桁の違うような資金力を持つ投資家がたくさんおり、起業したい若者に投資を行っています。
ここで重要なのは、投資家たちは投資した人々が失敗するのを当たり前だと考えていること。実際、サンフランシスコで起業した人たちは99%が失敗するといいます。しかし、1%の人たちは世界を変えるような大成功を収める。そのとんでもないリターンがあるから、投資家は失敗を気にせずに投資を続けているというわけです。むしろ「たくさん失敗しているやつは、次こそ当てるんじゃないか」と賭けてもらえたりもする。
日本の場合、起業するとなったら多くの場合は銀行からお金を借りることになります。そのために綿密な事業計画を出し、いろんな書類を整えないといけない。でも、サンフランシスコの場合はもっとカジュアルに投資を受け、起業していく環境があります。プロダクトも完成度20%くらいのプロトタイプの段階でどんどん出していく。そうして失敗しながら、1%の大成功を生んでいく好循環が生まれているんです。このスピード感は日本では感じられないものです。
熱気を支えるカルチャーとコミュニティ
そして、もうひとつサンフランシスコを特別な場所にしているのはやはり文化です。たとえば、ヒッピー文化の発祥地であり、その流れを汲む音楽文化の流れがいまだに息づいています。
60年代から続く伝説的ライブハウス、フィルモアなどさまざまなライブハウスもあり、そこに足を運ぶことも今回の旅の目的のひとつでした。
日本にもたくさんのライブハウスがありますが、サンフランシスコのライブハウスは衝撃的でした。足を運んだのは金曜の夜だったと思いますが、2,000人くらいの人が集まり、みんな踊り狂ってるんです。
しかもそれが深夜まで続く。20時からスタートだったんですが、まず前座的なサルサのバンドが1時間以上演奏したんです。「今日はこれで終わりなの?」って思ったくらい長かった(笑)。でも、その後出てきたメインのバンドは4時間近く演奏をしたんです。アメリカのライブハウスでは深夜2時までお酒が出せるんですが、その時間ギリギリまでライブが続きました。
そういうライブカルチャーとは、お酒も密接につながっています。カリフォルニアはクラフトビールやワインも盛んで、ブルワリーも1,000軒前後あったりします。そして、uberやLyftなどのシェアリングエコノミーも発達していてお酒を楽しむインフラが整っているのです。
クラフトビールやコーヒーもそうですが、サンフランシスコでは単純な売り物である以上に、コミュニケーションツールとしての側面が大きいと感じました。クオリティーが保たれていて、ビジネスとして成り立っていることは当然ですが、音楽などのカルチャーと結びついて、コミュニティを形成するツールになっているんです。
イギリスのパブ文化や日本の新しい横町文化などでもそうですよね。この文化は今の時代にフィットしていると思います。
食の面でも面白いものがありました。Impossble Bugerという、植物性素材でつくったハンバーガーもそのひとつです。おそらく日本にもそのうちにやってくるでしょう。
日本でもヴィーガン(肉だけでなく、乳製品など動物性の素材も使わない食や生活をめざす考え方)が知られるようになってきていますが、向こうではさらに進んでいます。その出発点も「動物がかわいそう」というような発想ではありません。世界中の人が肉を食べようとすると、エサや土地などを含めて資源が足りなくなるそうなんです。だから、セーブして代替食品を考える必要がある。そういう発想から植物性素材の“肉”というのを研究していたりする。これもやはり世界を見ている視点だからこそ生まれる発想ではないでしょうか。
志だけでいろんなことができるROCKの面白さ
新しいものが生まれる好循環がつくられているサンフランシスコは、日本とはまったく違う、まさに世界の最先端というのを感じる街でした。「やっぱりここは面白い」と改めて実感しました。そういう意味で、今回の旅は、新しい答えを探しに行ったというより、自分のなかにあった感覚を確かめに行く旅だったのかもしれません。
サンフランシスコのエネルギーとスピード感を体験すると、どうしても日本の“やりにくさ”を痛感してしまったりもします。しかし、同時に、日本でも特異な歴史を持つROCKや萌木の村、清里という場所にはものすごく可能性を感じるし、「ここだって何でもできる」とも思うんです。
サンフランシスコは失敗ができる街ですが、僕もありがたいことにROCK&萌木の村でとても自由にいろんなことをやらせてもらっています。僕自身は特に専門的なスキルがあるわけでもないけれど、志だけで任せてくれて、実際にROCK Re:birthdayパーティーや、この夏新しくつくったフリーペーパーなど、新しいことに挑戦させてもらえています。
そして、そういうものをつくっていけるスキルのある人たちや、面白いことを考えている人たちもいる。だから、何かをしたいという若い人はまずROCK、萌木の村に来て欲しいと思っています。ここで何かをはじめることで、清里という場所の新しいモデルケースをつくれるんじゃないかと思っています。