総支配人・三上が聞く!Vol.03
「いろんなものが混ざり合っているのが健康的な場所」
ランドスケープデザイナー・ポール・スミザーさん

ROCKの若き総支配人・三上浩太が「今会いたい人」「話をしたい人」に声をかけて、飲食店という枠を超えた話をするシリーズ「三上が聞く」。第3回目は、ROCKもある萌木の村で庭をつくっているランドスケープデザイナーのポール・スミザーさんにお話を聞きました。

スミザーさんのつくる庭は、「ナチュラルガーデン」と呼ばれるもの。自然の森を真似して、その土地に合った植物を、その植物に合った場所に植え、生態系の一部になることで、農薬なども使わない生物多様性を育む庭をつくっています。

レストランと庭、関わり方は違うけれど、ともに萌木の村を支えている2人は、今どんな問題意識を持っているのか……?

【ポール・スミザー】
ランドスケープデザイナー、ホーティカルチャリスト(園芸家)。イギリス、バークシャー州生まれ。英国王立園芸協会ウィズリーガーデンおよび米国ロングウッドガーデンズで園芸学とデザインを学ぶ。生物多様性を育む環境づくりについてのコンサルティングのほか、ナチュラルガーデンの実践的な指導や、ワークショップを行っている。

庭から萌木の村全体までデザインを考える

——今回はこの企画では初の、割と身内との対談ですね。

ポール・スミザーさん。

三上 確かに身近ではあるけど、でも、スミザーさんは内側の人間って感覚じゃないと思う。でしょう?

スミザー 社員とかではないし、「毎日何時に来なさい」っていわれてるわけでもないからね。でも、かといって無関係なわけでもない。ゴミが落ちてたら普通に働いてる人と同じように気になるし、ふしぎな感覚だよね。三上くんも顔は知っていたけど、ちょっと前まではそんなに話したことはなかったし、どんなことをやっているのかは知らなかった。

三上 萌木の村でいっしょにやっている人のなかでは、スミザーさんはコミュニケーション取る方じゃないかなって勝手に思ってますけど。

スミザー そうなの?

三上 スミザーさんが社長とかに怒ってることがあるときに呼び出されて、「伝えといて!」とか(笑)。

スミザー ああ、三上くんは普通の感覚がちゃんと通じるから。たとえば、今東京でやったらすぐ怒られるようなことが、地方では「昔からやってたから」って続いてたりするでしょ? そういうのに対して「おかしいよね」っていう感覚がある。だから、いろいろ相談したりも、ね。

三上 そうやって集まった相談を社長とかに上げていたら「お、こいつは問題意識を持ってるんだな」って思われて、気づいたら今の立場に(笑)。

三上浩太。

——普段はどんな相談や話をしてるんですか?

三上 いろいろですよね。「萌木の村の広場に新しいカフェつくりたいね」とか。

——カフェですか。もう庭の話にとどまらないんですね。

スミザー そもそもハッキリ「庭をつくってくれ」って頼まれたわけでもないんだよね。呼ばれて、花壇のあまりにもひどい状態を目の当たりにして、でも素敵な場所になる可能性はあるなって、勝手にやっているような状態(笑)。萌木の村の庭自体も同じようなもので、誰かが「よし、これから萌木の村にこんな庭をつくるぞ!」「誰々に頼んで、何年かけてつくる!」って決めてできたわけじゃない。上次さん(萌木の村代表取締役社長・舩木上次)の「広場の芝生がまただめになった、困った」くらいの話から始まって、いつの間にかこうなってたっていうものなの。だから、この庭をこれから先どうしていこうというのも誰も考えていなかったりする。唯一考えてくれているのがこちらのステキな……(三上を見ながら)

三上 (笑)

スミザー 実際、上次さんも庭を見にこんなに人が来るなんて思っていなかったでしょ? 単純にみんなで笑いながら石垣を積んでいくのが楽しかったんだと思う。もともとそういうふうに思いつきで広がって来た場所だから、全体の設計が足りないんだよね。動線もバラバラ。最初に萌木の村に来たときは、「萌木の村って何?」って感じだったし、ROCKの奥にある建物やスペースもどういう関係のものかわからなかったんだよね。そこも「萌木の村」の一部で、いろんなお店があるわけだけど、最初は別荘地か何かなのかと思って、入っていいのかわからなかった。でも、駐車場まで含めていろんなところをちょっとずつ見直していけばすごくよくなるし、来た人も楽しみやすくなる。

ROCKの奥に広がるポール・スミザーさんの庭。清里や野辺山の開拓時代に掘り起こされ、ずっと放置されていた石を集め、積み上げて整備されていった。

「観光のため」に増える観光のためにならないもの

スミザー 萌木の村っていいところはたくさんあるけど、全体のプランがないっていうのは本当によくないところだよね。何を目指しているかわからないから、自分が何をすればいいかもわからない。そういう問題って、行政なんかでもすごく感じる。高速道路を引こうとか、学校を廃校にしたりとか、そういう大事なことを誰かが勝手に決めちゃうでしょう? 現場を見てるわけでもない人が、全体のプランもなく。萌木の村の場合は、今までは社長が「こうするぞ!」って決めてくれてたわけだよね。それがここの面白いところではあって、そういう形でなければビールだってつくるようになっていなかったと思う。でも、これからはみんなが「萌木の村や清里をどうしていくか」って考えないといけない。今ってまだ噛み合ってない、バラバラな状況だと思う。お客さんはけっこう来てくれているんだけど、ただちょっと寄ってまた別のところに行ってしまうし、駅前で途方に暮れている人をたくさん見るよ。泊まってはいく人もここに泊まるわけではなかったりする。うまく回っていなくてチグハグなんだよね。

三上 萌木の村に限らず、清里というエリアにとっての課題ですよね。

スミザー そう。でも、清里で出てくる話も「何か違うんじゃない?」っていう話が多い。「軽井沢みたいにならないと」っていう人もいたりするんだけど、ほかの場所の真似なんてしなくていいじゃない。軽井沢だって今すごくいい状況ってわけじゃないし。なのに「清里と軽井沢を高速道路でつないだらいい」とかさ。こういうところに来る人たちはゆっくりしたくて来る。「軽井沢に行ってそれで清里もついでに……」なんてバタバタしたいわけじゃないじゃん。で、今度は海外の人を呼びたいって話が出てきてるけど、そういうのって主に団体を呼ぼうって話だったりする。団体さんは最初はいいかもしれないけど、すぐ来なくなっちゃうよね。そういう人たちって行ったことがないところへ行きたい人たちだから、リピートはしてくれない。それで、観光客を呼ぶためにって大きな看板をつくったり、箱物を増やしたりしてる。それっていらないものを足してるだけなんだよ。むしろ反対のことをしなきゃいけない。

スミザーさんの庭づくりは「土地や場所に合った植物を植えていく」というのが基本。自然の理に叶ったその庭には、貴重な植物だけでなく、珍しい生き物もやって来ている。

——「反対」ですか。

スミザー そう。よけいなものを取っ払って、キレイにしていく。清里ってもともと山に登って、下りてくる場所でしょう? 下りてくるとここから山がみんな見える、そういう場所だから流行ったわけです。まずはそういう状態に戻さないと。廃墟と化した建物やもうお店がなくなったのに放置されたままの看板とか、そういう不要なものをまずは一旦片付ける。それだけでびっくりするほど美しい場所に戻る。本当、バブルなんてなければよかったのにって思うよ。

よけいなものを減らすことが、本当の魅力づくり

三上 清里はバブルでいろんなお店ができて、消えていきましたよね。

スミザー 「リゾート」にしようとしてね。リゾートってさ、いろんなものを全部よそから持ってくるわけ。「どこそこの高級肉を使って、どこかのレストランが出店」みたいに外から持ってきて、現地にはゴミを増やすだけ。そんなの、ここで食べる意味はないじゃん。同じようなリゾートを増やしたってしょうがないでしょう?

三上 スミザーさんの庭と同じ考え方ですよね。

スミザー そう。農業でも材木のための植林でも、1種類のものをひたすら植えるでしょう? 同じものを延々とつくってたら、その土地は悪くなるに決まってるよ。それで仕方ないから、化成肥料をボンボン使って、どんどん悪くなるばかり。そんなの続かないよ。自然の森はいろんな木や生き物が混ざり合って健康的になる。それは私たちの社会もそうなんだ。同じような「リゾート」を増やしてもしょうがないのに、えらい人たちは「何か新しいもの、お店や施設をつくらないと人を呼べない」って思ってる。逆だよ。そういうどこでも同じようなものを減らして、本来の自分たちの魅力を磨いていく。それが必要なこと。

三上 すごくよくわかります。まさにそうですよね。


スミザー 清里って、理想の土地だよ。森があって、いろんな植物や生き物がいて、農業ができて……この土地のものだけでキチンと回していけるでしょう? 森だってこんなに立派なのに、安いからって材木を海外から買ったりしてる。庭と同じで「ここは乾燥してて日が差すから桐の木、ここは湿ってるからハンノキを植えて、ここはコナラがよく育つからコナラを」って植えてあげれば、材木だってとれる森になる。今、オーク材とか人気だけど、オークってコナラでしょう? 日本でも育つわけ。それを海外に出したら「ジャパニーズオーク? いいね!」っていわれるよ。「サムライオーク」とか名前付けて出せばいいの(笑)。そうやって、今はただの“雑木”だと思われてる森を磨いていけばいい。そういうことをしていって、この場所らしい魅力をつくれたら、「そこが好き」ってお客さんが来るようになる。みんながみんな「大好き」って思う必要はなくて、「好きじゃない」っていう人がいてもいいの。ビールだってそうでしょ? 「タッチダウンは流行りのクラフトビール(IPAみたいな強烈なホップの香りと苦味)みたいな味がしない」っていう人もいるだろうけど、それが個性だし、そこが好きっていう人もいるわけ。ツアーで来る人は2回は来ないけど、自分で調べて、ピンポイントな魅力を感じてくれる人はリピーターになるよ。

三上 スミザーさんの話ってすごく共感するんです。だからこそ、スミザーさんが「なんで今こうなんだ」「これが足りない」と感じるところを、現場で埋めていかないといけない必要があるし、それが僕の役割でもある。でも、なかなか急には変えられない部分もあって、どうしたら効率的に変えていけるんだろうって悩みます。せっかく今スミザーさんの庭っていうすごくいいもの、魅力のあるものがあるから、みんなで協力すればもっと面白いことができると思うし、萌木の村をよくしていくこともできると思うんですよね。

スミザー 三上くんは今のままでいいと思うよ。そうやって少しずつ変えていくしかない。

三上 でも、スミザーさんとこういう話を初めてできたとき、すごく嬉しかったんですよ。「萌木の村のこと、こんなに考えてくれてたんだ」「見捨てられてなかったんだ」って。

スミザー やりがいもあるし、ここにしかない自然の植物もいろいろあるしね。今はそうだな、広場も変えたいよね。あそこでさ、ビアフェスみたいなことができたら楽しいじゃない。

三上 それいいですね!!スミザーさんと話してるとやりたいことがいっぱい出てくるから面白いです。ビアフェスも、カフェもやりたいですね。これからも一緒に面白いことを考えていきましょう。今日はありがとうございました!

前の投稿
サシだけが牛肉じゃない!ジューシーなお…
戻る
次の投稿
「失敗するのが当たり前」だから世界の最…

ROCK MAGAZINE ROCK MAGAZINE