《八ヶ岳ベーカーズ対談企画》売れないパン屋をどうやるかがテーマだった。
—カフェ・ド・ペイザン八ヶ岳・日野沢輝夫さん

八ヶ岳のパン屋・焼き菓子屋が萌木の村に集結する『八ヶ岳ベーカーズ』。今年の秋は2020年10月11日(日)に行われます。イベント開催に向けて、出店するベーカーズおひとりおひとりを紹介する特集記事を毎週2回お届けします。

3回目は、『カフェ・ド・ペイザン八ヶ岳』の日野沢輝夫さんです。長坂町大井ヶ森にお店はあります。日野沢さんのパンは、全て手ごねで、薪窯で焼き上げています。ランチもやっており、薪窯で煮こむココット料理もいただけます。今回は、今のスタイルにたどり着くまでのお話を伺いました。

作り手の日野沢さん

—いろんな取材受けてもう話し尽くしたかと思うのですが、パンを始めるきっかけを教えて下さい。

日野沢 特にきっかけは無いんですが、実家がパン屋(岐阜県関市)だったから仕方なく始めた感じですね。高校を出てそのままこの道に入りました。「職人が辞めたからお前そのまま入れと」言われ、ノートだけ渡されて。

—そうだったんですね。高校を出るまではお店を手伝ったりしていたんですか?

日野沢 いえ、全く手伝っていません。だから本当にパンが分かったのは、パン作りを始めて10年くらい経ってからですかね。その間はなるようになれという感じでやっていました。本当に何にも知らなくてやってましたね。でも30代の頃から少し勉強しようかと思って、講習会行ったり、東京行ったりとかして本当のパンの作り方を習いに行きました。そこでこれがちゃんとしたパンなのかと思って、もっとちゃんと勉強して、それから本格的なパンを作ろうと思ったんです。それまでは普通の田舎のパン屋ですからクリームパン、メロンパン、ロールパンなんかを作ってて、「これでいいのかな?」って思ったんです。パンを分かり始めてからだんだん生意気になってくるんですよね(笑)

—最初は地道な勉強からだったんですね。お父さんがパンの先生にはならなかったのですか?

日野沢 全然なりませんでしたね。パン職人じゃなかったし、職人さんを雇ってやっていただけでパンの事は何も分からなかったんで。だから自分で勉強して、「ああ、パンてこういうものなんだ」って分かり始めてから、ドイツパン、フランスパンに行こうと思ったんです。

—なるほど。パン作りを始めた当初は本当に菓子パンだけだったんですね。

日野沢 そうですね。クリームパン、メロンパン、焼きそばパン、コロッケパンとか。高校の売店にも出してました。食パンも一日に300本作ったりとか、工場も造ったので、今の食パンブームみたいな感じでした。それもいい加減嫌だなと思って、それからハード系のパンを勉強し始めました。40歳前に天然酵母、国産小麦にシフトしようと思ったんです。でも社内で兄弟とか従業員になかなか理解されなかったんです。「誰が買うのか?」と。それで仕方ないから40歳の時にそこを辞めました。同じ市内だったんですが、女房と二人でハード系のパンでいこうと。

日野沢さんの自家製酵母。左がぶどう酵母、右がヨーグルト酵母。

—それからはソフト系のパンは作らなかったんですか?

日野沢 メインにはしていませんが、一応作っていました。というのも、30年前に関市の田舎でフランスパンと天然酵母のパンを誰が買うんですかという話なんですよね。

—実際に地域の人たちの反応はどうだったんですか?

日野沢 地域は当てにせず、まずは卸しを考えました。天然酵母って昔からそうですけど、卸しがメインなんですよ。自然食品とか、生協とか、取引先はほとんど県外でしたね。それをまず確立しようと思ってやっていました。だから裏仕事が多かったです。お店はちょっと並べてそこからスタートしました。ナチュラルハウスという大きな会社と取引が出来る事になって結構な量を作ってましたね。全国のナチュラルハウスとか、伊勢丹とかに卸してました。そうこうしているうちに店の方が売れ出したんです。そんな中、20年位前に天然酵母ブームっていうのが来たんですよ。それから色んな雑誌に載せてもらったり、テレビの取材が来たりでだんだん売り上げが上がって行きました。

—今、関市のお店は岐阜の方は息子さんがやっているんですよね。手伝いに行ったりすることはあるんですか?

日野沢 月に一度くらいは帰りますけど、中の事は一切やらないです。指示出すことはしません。好きなようにやればいいし、売れなきゃ自分の責任だし。今のところちゃんとやってるし、それなりにお客さんも来てるのでいいペースなんじゃないかなと思います。

ここ(カフェ・ド・ペイザン八ヶ岳)では、売れないパン屋をどうやるかっていうのがテーマでした。

店頭に並ぶパンの数々。日野沢さんのパンは、外はカリっと中はもっちりしています。薪窯で焼き上げることによる香りが特徴的です。チーズやワインを合わせたくなるパンばかりです。

—売れないパン屋とはどうゆう事ですか?

日野沢 売れなくても経営できるパン屋という事です。どうやったら売れるかはもう分かったんで。そのためには設備投資が必要で、材料もいっぱい使わなきゃいけない。だから敢えてミキサーは無いし、発酵室も木の箱だし、石窯で焼くだけだから電気代もかからない。薪もくれる人がいるんでお金がかからないんですよね、お金かからないっていう事はそんなに売れなくても良いってことですよね。

カフェをやればランチでパンを出せるから、なるべくロスは出ないようにできるし。なるべく目立たないようにやればいいなと。看板を出さなければお客さんもそんなに来ないだろうと思って(笑)

—お客さんが来ないだろうと見越してお店を開いたというのは驚きです!

日野沢 それでもやっぱり見つけて来てくれるお客さんはいるんですよ。天然酵母と薪窯で作るパン屋、好きな人は絶対いると思っていたんで。大体のお客さんはうちのパンを分かってくれてるんで浸透したのかなと思いますね。

薪窯では、パンを焼きあげた余熱でココット料理を作り、ランチで提供しています。

—そもそも、岐阜からこっちに来てお店を開いたのは?

日野沢 こっちには良く遊びに来てました。50代は休まず仕事をしてたんで60歳過ぎてから移住先を探してたんです。小淵沢と清里はイメージが強すぎたので外したんですよ。それで長坂にしたんです。探すのに2年くらいかけましたね。中古のペンション、別荘、古民家、一通り見たんですけどいまいち合うのがなくて。。。この辺を紹介してもらったんですが、森で静かな感じがいいし、木がいっぱいあって夏涼しいし、下に川もあるしいいなと。

どうゆうところに建てたいかというイメージはありました。メイン通りは避けて一、二本入ったところに建てて、ちゃんとした建物、駐車場を造るとか。


—確かに涼しそうですね。冬は発酵はどうしているんですか?

日野沢 この辺はそんなに雪は降らないし、寒くても薪ストーブがあるから。発酵は寒くていいんですよ、発酵しすぎると困るんで。なので夏場はずっと冷蔵庫に入れています。だから寒いほど良いんですよね。普通だったらドウコンとか冷蔵庫入れないといけないんですけどここだったら夏場以外はいらないんで。あとは窓を開けておけばいいんですよ。

—酵母のもとになるものはどうやって見つけるんですか?

日野沢 季節ものを農家さんが持ってきてくれます。今はぶどうの酵母を使って作っています。もう少ししたら津金のりんごが出るんですよ。リンゴ農家さんからハネられたものを買ってます。酵母にも使えるし、ジャムにも使えるからいいんですよ。

―「売れないパン」である日野沢さんのパンは、本当に作りたい理想のパン作りのこだわりをすごく感じます!今後、もっとこうしたいとか、何か展望はありますか?

日野沢 今後は仕事をもっと減らそうかなと思っています。年齢的にもね。薪割りもやらないといけなくてくたびれてしまうんです。71歳だから頑張る歳でもないし。あとはお客さんの要望に応じてパン教室をやっていくとか、のんびりとやっていければいいかなと思いますね。お客さんは大勢来なくてもぼちぼち来てくれればいいかな(笑)あとは趣味を探さないと。

―初回の八ヶ岳ベーカーズから出店してくださっていますが、他のパンのイベントと違うところとか、もう少しこうすれば良いんじゃないかというところはありますか?

2019年秋、初めて八ヶ岳ベーカーズを行ったときの日野沢さんの写真。

日野沢 あまりイベントは参加したことないんですけど、都会でやるイベントとに比べて規模の小ささがいいのかなと思います。大体3時間でほぼ売り切れるんで。この地域のパン屋さんだったらお店が無理をしなくてもいいんで、そのくらいがいいのかなと思います。

―「出店者さんに無理をさせない」というのは、企画側も心掛けていることです。今日は日野沢さんの今日に至るまでのお話をお伺いできてよかったです!八ヶ岳ベーカーズでもよろしくお願いします!

【八ヶ岳ベーカーズ2020autumn】
日時:2020年10月11日(日) am10:00~pm15:00 ※売切れ次第終了

場所:萌木の村ひろば

入場料:無料

問い合わせ:0551-48-2521 (萌木の村ROCK)

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