【年末特別座談会】萌木の村はいずれ本物の『村』になる
——舩木上次×ポール・スミザー×三上浩太×姜龍哲

平成が幕を閉じ、令和がスタートを切った2019年。今年も多くの人に支えられながら、ROCK、そして萌木の村はやってきました。

今回はそんな1年を振り返りつつ、萌木の村の次の時代をどうしていくかを語る年末特別座談会をお届けします。メンバーは萌木の村代表取締役社長・舩木上次と、庭を手がけているポール・スミザー、そして取締役の三上浩太と姜龍哲です。

それぞれが見ている課題、そしてこれからのビジョンをたっぷり語ります。

「動物園」でなく「人が働く組織」に

——2019年も終わりますが、今年1年を振り返って、皆さんいかがだったでしょうか?

三上 姜さんはどうでしたか? 12月から新しく取締役になったわけですが。

 「取締役って何だろう?」って考えているところです。今まではブルワリーの担当だったので、そこだけを見ていればよかったんですけど、今度は全体を見ないといけない。

——ブルワリーは今、いろんなチャレンジをしてますよね。

 ブルワリーには2年前に責任者として異動したんですが、その当時のブルワリーはまだ基本的なところや仕事に対する姿勢という点で、むしろ真面目過ぎたのかもしれません。初代醸造長・山田一巳さんの思いや技術を守っていこうという気持ちが強く、それで結果的にルーチンのような仕事になっていて、「自分たちが本当においしいと思っているビールをお客さんに届けるんだ」という自発性がないように思えた。でも、「いいものを届けよう」、さらには「自分たちがつくりたいものをつくろう」って気持ちが必要じゃないですか。この2年でそういうところはだいぶ変わってきたと思います。

姜龍哲。

——ここ1〜2年はコラボビールとか、新しい取り組みも多いですもんね。

 今年でいえばたとえば「ファーストダウン」。「1杯目専用」「最初の1杯として美味しい」という新しいコンセプトを打ち出せた。やっぱり反響も大きかったです。ここに来て3年くらいの若手ブルワーもいるんですが、来年はもしかしたら彼のつくりたいビールというのにもチャレンジできるかもしれない。活発になってきているし、そういうチャレンジは積極的にバックアップしていきたいです。計画もきちんと立ててね。

上次 私の尊敬するある社長さんがこの間本を書いたんですが、そのなかで「動物園か人間か」という話をしているんです。「『動』に人(にんべん)と書いて『働』という字になる。動くだけだったら動物園といっしょだ」というんです。つまり、人が組織として働くということは、それぞれの人が意思を持って、自分の考え方を持ちながら行動することなんですね。だから、「動物園から人が働く素敵な組織に成長させろ」と。自主性みたいな話が出たけど、萌木の村はもしかしたらまだ動物園かもしれない。そこをなんとか、それぞれの持ち場でそれぞれの能力を活かして役割を果たして、ハーモニーをつくる場所に変えていかないといけない。そのためにみんなも成長する、そして私自身も成長する必要がある。それで、楽しく喧々囂々できたらなと思っています。

 萌木の村はずっと社長(舩木上次)のカリスマでやってきたという側面も大きい。でも、これからはその個人のパワーだけでは限界が来る。そこを現場のスタッフも受けとめないといけないですよね。

スミザー 変なルールもいっぱいあるんだよ。何のためにやっているのかわからないまま「社長に言われたから」ってそのときだけ対応しているような。大事なことなんだから社長に言えばいいのにってことも、そのままになって、いつの間にか担当が変わって問題が放置されちゃうこともある。

 そういう部分でもある意味、現場はずっと社長に頼ってきたと思うんです。何か問題が起こったときにも「いや、社長に言われてやったことなので」って言ったりする。確かにそうなんだろうけど、言われてやったのは自分だし、自分がやったことに責任を持たないといけない。

——責任を取るからこそ、「言われたこと」に対するやり方も変わりますよね。「言われたまま」じゃなくて「ここが問題だから、むしろこうしなきゃいけない」という提案も出てくる。

 自分がやりたいこと、自主的にやることを自分たちで決めてやっていけるような会社にしたい。そこが最優先ですね。

萌木の村は「庭」から「食べ物」へ

——スミザーさんはどうでしたか、この1年。

スミザー まだ今年も終わってなくていろいろやっているから振り返るという気持ちになってないんだけど……今年は1年ずっと暗い気持ちだったね。

——そうなんですか?

スミザー 毎年僕のやり方に興味がある人に庭のことを教えるプログラムがあって、今年もいろんな人が参加して、すごく興味を持ってくれた。イラストレーターさんとか、学校の先生とかいろんな分野で活躍しているような人が来てくれてね。それはすごくいいことなんだけど、あとはもうずっと暗いね。今年に入って気持ちがものすごく焦っている。

ポール・スミザー。

——それは何に対して?

スミザー 地球の環境変化。それがみんなが言っているよりずっと早く進行しているっていう専門家の発表が毎週のように出るんだよ。だけど、日本のマスコミはほとんどそんなこと報道しないでしょ? 今だったらずっと女優さんの逮捕とかのニュースをやってる。あんなの1回報道して「まわりに止めてくれる人がいなかったのかな」とか、それでいいんだよ。延々と「ああでもない、こうでもない」なんて話す必要はないじゃない。そんなニュースの様子を見ていると、ますます気持ちが焦ってくる。まだみんな、今までどおりの暮らしがずっとできると思ってるんだけど、もう無理なんだよ、大量生産・大量消費みたいなことは。

三上 「持続可能な仕組み」は僕たちの大きなテーマですよね。いや僕たちだけでなく人類のテーマか。

スミザー これから求められる物って、何かを自分でつくるため、直すための道具とかになる。そういう時代はすぐに来るよ。で、萌木の村に話を絞れば、庭はどこまでやるか、とにかくやるならやるけれど、僕個人はどちらかというとみんなが食べるものを確保するところまでいきたいと思ってるんです。

——スミザーさんの庭づくりの考え方は、確かに農地づくりにもつながりますよね。土の中の菌などの生態系を守って、それによって植物が育つ環境にする、という。

スミザー そう、同じなんだよ。いつもいっているように、今の農業は考え方が間違っている。土を一生懸命耕して、地中の菌を外に出してしまう。それで化成肥料や殺菌剤なんかを大量に撒いて野菜をつくるんだけど、栄養はどこの土にももとから十分入ってるんだよ。よく「痩せた土地」なんて言うけど、痩せた土地なんて世界中のどこにもない。砂漠に行ったって土には栄養がたくさん入ってるんだから。じゃあ何が含まれていないかっていったら、必要なものを用意してくれる生き物、菌や微生物なんだよ。それを耕す、つまり掘り起こしたり、殺菌剤なんかを使って私たち自身が壊してしまっている。だから、栄養はあるのに野菜がその栄養を取り出せない。そこに肥料の会社が「栄養が足りてませんね」って肥料を売りに来るでしょう? で、農家は「なるほど! どおりで育たないと思った」なんていってそれを使う。最後には土がもうダメになったからっていって、山を切り崩して客土(ほかの土地から土を持ってくること)する。客土した土は、掘り返したとはいえ多少は生物が残っているからいいんだけど、それもまたすぐダメになる。

——悪い土をどんどん増やしている。

スミザー 本当は肥料なんていらないんだよ。森を見ればわかるでしょ。誰も肥料なんて撒いてないけど、あれだけ豊かに植物が育っている。みんな、何がいい土かわかってないんだよね。その辺の芝生だってそうだよ。芝生って本当は牛の肩くらいまで伸びる植物なんだけど、どこもそんなに伸びないでしょ? 方法を間違えてる。地球が毎年ずっと成長し続けるなら今までの方法も続けられるけど、そうじゃないでしょ? いろんな資源を大量に使って、毎年減らしている。生物を戻してあげれば、土はちゃんと豊かなになるんだよ。実際、海外のある地域ではみんなで土地を再生するプロジェクトをやって、広大な森と農地をつくった。明日食べるものがなかったような土地で。土地をいい状態にすることはできるんだよ。それを「こうやるんだよ」って見せてあげないといけない。萌木の村はそのお手本になるべきなんだ。

萌木の村は「バカ集団」にならないといけない

——その形が農業、と。

スミザー リゾートの弱いところは、よそから食材を集めているところなんだよね。いろんなところから食材を集めて、付加価値を出して提供している。だけど、それってつくり手や物流をはじめ、大勢の人がバックにいてようやく成立していること。それは今までどおりでは続けられなくなる。ここはまわりに広い土地があるでしょう? そこをもっと大事に使うべきだと思う。庭はそういう考え方を知ってもらう入り口としてすごくいい。見てもらえるし、「これなら自分にもできる」って思ってもらいやすい。「毎年イギリスと同じ面積の原生林が失われています」っていったって、どうすればいいかわからないけど、この方法で庭をつくることはみんなできるから。

——そういうことができたら、ここは本当に「村」になりますね。

スミザー そう。いずれ萌木の村の「村」というのは意味が変わってくると思うよ。

上次 そういう次の時代の種を撒くことまではできたと思っている。スミザーさんみたいな人がいてくれたから。だから、今度は撒いた種を育てる集団をつくらないといけない。いきなり全員がそういう意思を持つのは難しいから、リーダーと呼ばれる人を育てて、現状を維持しつつ成長させていくと言うことをやらないといけないね。そのために、萌木の村は心身ともに素晴らしい人をつくらないといけない。で、ある意味では今の価値観の逆のことをやる、バカ集団にならないといけない。

——バカですか。

舩木上次。

上次 そう。たとえば石積みもそうだよ。9年間、私の友人がずっと昔の方法での石積みを続けてくれた。あんなの、普通に事業者に頼んだらコストがかかってしかたないし、面倒でやらないっていうんだ。そうだよね、経済と効率が今の物差しなんだから。セメントでつくった間知石を使った方が楽だし、安い。俺たちがやっているのは縄文時代や江戸時代みたいなやり方なんだから。でも、俺たちは効率とは別のこと、逆のことにこそ価値があるということを伝えていかないといけない。

スミザー 今の常識って非常識なんだよ。今非常識っていわれることこそが本当の常識。石積みだって、セメントのものを使ったとして、それが壊れたりズレたりしたらどうするの? 石なら削ってまた使うこともできる。だけど、セメントは壊れたら終わりでしょ? どっちが非常識だと思う?

三上 そういう考え方はこれからすごく浸透していくと思います。アナログだけど最先端な気がします。石は何千年も残る素晴らしいメディアですし、地元の石で積んだ石積みにはテロワールもある。萌木の村でやっているいくつかのことというのは、そういうことの新しい表現方法なんじゃないかって思ってます。

上次 ここの庭は日本の中でナンバーワンの庭になっていると思う。以前は植物の育ちが悪いと感じていたけど、スミザーさんが来て、石積みがつくられて、土の中で微生物が育ち、非常に強い植物群ができた。これはほかのどこも追随できていない。その価値というのを、食糧やほかのいろんな分野にも波及させていく。萌木の村はそのモデルになれると思う。

スミザー それがこれからの萌木の村のミッションだよ。ここでモデルを見せて、清里を変える。

2021年の50周年がターニングポイントになる

上次 ただ、新しい考え方が出てきたときというのは、パフォーマンスをする人も出てくる。つまり、「こっちが正しい」という方向を目指すパフォーマンスをする人。本物じゃない人だ。俺たちは本物にならないといけない。本物とはつまり、必然だよ。でも、本物を目指す人は地道なことを続けるからなかなか理解されないし、儲からない。パフォーマンスをする人の方が脚光を浴びてしまう。そういうところとも戦っていかないといけない。

三上 萌木の村はある意味では練習台だと思うんです。ここでうまくいかなければ、地域を変えるなんてできない。まずはここで試してここを変えていくことをやらないといけない。そのポテンシャルはあると思うので。世界にも通用するだけのものが。

 自然とともに生きる、自然からもらったものをまた返すような場所づくりは僕もやっていきたい。そうやって、自分たちの夢を実現する場所に萌木の村がなるといいなと思ってます。僕は表に出るようなことは苦手なんですが、それでも自分も一歩踏み出さないといけないな、と。三上さんとタッグを組んでやっていけば、萌木の村は今日よりも少しでも成長していけるんじゃないかと思います。そして、そのビジョンを明確にするのも自分たちの役割なんだと。

三上 僕はスミザーさんや社長ともよく話をするので、二人の考えていることを知る機会がある。だけど、それをスタッフ全体にはなかなか共有できていないのが現状です。この部分をちゃんと共有しないと、結局「社長がやってるから」というだけでやることになる。

——「社長」が「三上」や「スミザー」に置き換わるだけ、と。

三上 それぞれが目の前のことを自分のこととして捉えてもらえるようにするにはどうすればいいかを、僕らは考えないといけない。今の萌木の村って自分がやりたいことを見つけられないような仕組みになってしまっているのかもしれない。目の前に作業があるから、その作業をしてくれる人を求人するような形になっていたり。本当は「ここはこういうことをやっているんだ」「だったら、僕はここでこういうことをやりたい」っていう形で人が集まるような場所にしないといけない。民主主義で多様性があることがベストかもしれないけど、今の段階だとまだ意見を求められても困ってしまう人も多い。だったら、まずは僕らがリードして進めるという形がいいのかもしれないと、今、思い始めています。

三上浩太。

——トップダウンだけでもダメだけど、面白いビジョンを提示することで、今まではやりたいことがハッキリしていなかった人も「面白いじゃん!」って新しいアイディアを見つけられるようになるかもしれないですよね。

三上 それは必須ですね。若いスタッフはもちろん、僕らの上の世代、ベテランの人たちにも新しいものを見せていきたいなと思っています。社長たちとは仕事の上で意見したり批判することもありますけど、やっぱり僕は社長たちにものすごく恩がある。だから、そうやって早く新しいものを見せて、安心させてあげたい。来年1年で「もう安心して任せられる」というところまではいけないでしょうけど、ひとつでも認められるようなことを増やしていきたいですね。「親孝行したい」みたいな気持ちです(笑)。

——2020年もいろんなチャレンジがありそうですね。

三上 2021年のROCK50周年というのが、この会社にとってひとつのターニングポイントになるんじゃないかと思っています。そう考えると時間はあまりない。まずはそこを目指して、姜さんとも協力しながら頑張っていきたいと思います。

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