「北杜市は食材にも人にも恵まれた街」
イタリア帰りのキッチンスタッフ・谷合慧

ROCKの味を支える厨房にはさまざまな経歴を持った料理人が集まっています。今年の夏も新たなスタッフが加わりました。イタリアンの料理人・谷合慧です。

東京のお店に加え、イタリアでの修行も経験した彼がやってきたことで、ROCKのキッチンはさらに個性豊かなメンバーになりました。今回の冬メニューで登場したちょっと変わったティラミスも彼のアイディアで生まれたものです。

今回はそんなイタリアンの専門家・谷合に話を聞きました。

食べるのが好き、だから料理の道へ

——谷さんは今年、2019年の夏からROCKで働きはじめたんですよね。

そうです。7月からですね。もともとの出身は東京で、相模原や八王子、高校時代は大月に住んでいました。高校時代は野球をやっていて、練習試合で(山梨県)北杜市にも来たりしていました。

——野球をやっていたんですね。高校卒業後に料理の道に?

最初は大学に通っていたんです。理学療法士、リハビリの先生とかになろうと思って、その道に進んでたんですけど、頭が追いつかなくて(笑)。それで大学は途中で辞めちゃったんです。そのとき、「じゃあ何をやろうか」って考えて浮かんだのが料理人だったんです。もともと食べるのが好きだったから。

谷合慧。

——それでどこかのお店に?

まず専門学校に行って、それから知り合いのお店で働きはじめました。そのお店のあと、新宿のお店で3〜4年、恵比寿で1年半くらい働きました。

——イタリアンが専門なんですよね。

そうです。それもやっぱりもともとパスタとか洋食が好きだったという理由です(笑)。フレンチなんかは敷居が高いですけど、イタリアンはちょっとカジュアルじゃないですか。

——フレンチと比べると気軽なイメージのお店が多いですよね。

もちろんイタリアンにも格式があって、リストランテ、トラットリア、バール、ピッツェリアとか、いろんなお店があるんですけど、イメージ的には入りやすい。それでイタリアンをやるようになったんです。新宿のお店で働いたあと、イタリアでも修行しました。半年くらいでしたけど。やっぱり腕をつけないといけない世界ですから。

——イタリアですか! どの辺に行ったんですか?

トスカーナ州の小さな町です。イタリアって面白いんです。山道を走っていると、突然ポンと町が現れるんです。小さい集落みたいな感じですね。ヨーロッパって国の入れ替わりや分裂を繰り返してきたので、イタリアも今の形になったのはそう昔のことじゃありません。だから、もともとどこかから逃げてきた人たちが山間に集落をつくったりしたんですね。自分が行ったのもそういう山間部の町でした。標高1,200mくらい、人口は1,600人くらいという、本当に小さな町ですね。日本人も僕ひとりでした。で、そこが清里と似た環境だったんです。

——清里とですか。

そう。その雰囲気が好きで、日本でもそういうところで働きたい、お店を出したいと思っていたんです。

——それで清里に。でも、ROCKってイタリアンが専門というわけではないですよね。

実は縁があったんです。姉夫婦が北杜市に移住していて、義兄はデザイナーとしてROCKとも仕事をしていた。それで「おいでよ」とか「ROCKは今、人を募集してるよ」って言われていた。それもあって「じゃあ行こうか」って。

——なるほど。興味があったところに縁も重なったんですね。

このお店なら、イタリアンで培った経験を活かせることがあるなら貢献もできるかもしれないし、ということで来ました。

土地ごとの味がはっきりしたイタリア

——イタリアンは日本でも人気ですけど、本場・イタリアで印象的だったことはありますか?

何でしょう。ひとつはお店にもよるんでしょうけど、お店がすごくフレンドリーな雰囲気だったことです。自分が働いていたところは割と大衆的なお店、トラットリアだったんですね。オーナーシェフの奥さんがサービスをしていたりするんですが、普通に席に座ってお客さんと肩を組みながら話したりするんです。

——それはすごいですね(笑)。

小さい町でお客さんもみんな顔見知りみたいな感じだったからというのもあるんでしょうけど、日本ではちょっと見ない光景ですよね(笑)。それと、みんなテラス席が好きなんだな、とか。外で食べたり飲んだりしたいって人が多かったです。

——料理自体は日本のイタリアンと大きな違いはなかったですか?

難しいですね。そもそも向こうでは同じパスタも土地によって違いが大きい。土地によって特色があって、たとえば北部の町のパスタを南部の町で出したりはしないんです。日本でいうと、うどんなんかそうじゃないですか? 讃岐では讃岐うどんだし、山梨の富士吉田だと硬い吉田のうどんがある。関西と関東で汁も違うでしょう?

——おせちなんかもそうですよね。土地柄がある。

イタリアは各州で代表的なパスタがあるんです。自分が行っていたトスカーナでは基本的に自家製の手打ちパスタが多かったです。でも、南部のシチリアなんかに行くと乾麺が多くなったりする。基本的に同じ素材、同じ料理でも土地によってフィニッシュが違ったりするんです。だから……たとえば日本ではアルデンテってすごく気にされるじゃないですか。でも、案外アルデンテって絶対ではないんです。向こうでも気にしている人もいますけど、あんまり気にしない人も普通にいるし、ソースによって食感を変えることもある。

——へー! なんか意外ですね。

ソースも酪農が盛んな北部なんかはチーズとか乳製品を使ったものが多かったり。地産地消なんですよね。自分の土地で採れた素材でどういう料理をつくるかってところからできているんです。それと、イタリアで食べていて印象的なのは、食材の味の強さですね。たとえば、茄子なんかにしても日本とは大きさも味も違う。

——茄子ってそんなに強い味があるものじゃないイメージです。

ですよね。でも、向こうの茄子は味が濃いんです。ほかの食材もそうで、ズッキーニ、パプリカ、赤玉ねぎとか唐辛子、ニンニクも何か違うんですよね。イタリアに行っていた人はみんな「素材の味が強い」っていいます。日本人とは好みも違うと思います。日本の場合、シャキシャキ感とか食感を大事にするじゃないですか。でも、ヨーロッパ圏って基本的に野菜とかをクタクタに煮るんです。そうやって味を出す。漬物にしても、日本はポリポリとしたものが伝統的ですけど、向こうではあまりそういう食感が好まれない。

日本は食感、ヨーロッパは煮込み

——確かに日本だとあまりとろとろになるまで煮るようなことってしないですね。

食文化の違いですね。でも、そういう料理で大好きなものもあります。リボリータっていうんですが、野菜をクタクタに煮たスープにトスカーナパンっていう塩の入っていないハードタイプのパンを入れてパン粥みたいにするんです。そして、それをひと晩寝かせて、翌日温めて食べるんです。

——それは……ドロドロですよね、もう(笑)。

見た目はすごいですよ(笑)。検索すると出てきますけど、見た目は決してそそらない。でも、これがめちゃくちゃおいしいんです。

——今検索してみましたけど、これ、日本だったらもうちょっと小綺麗に仕上げそうですよね。実際割と素材の形が整ったものもあります。

レストランだと格式もあるし、本場のものを出してもなかなか納得してもらえないかも。ある程度見た目の整ったものにするかもしれません。自分でお店を出せたら、こういう料理を出したいなって思ってます。

——日本でもおいしいけど匂いや見た目が取っつきにくい料理はありますよね。納豆なんかはよくいわれますし。

僕はそういうの好きなんで頼んじゃいます。それぞれの国の食文化が出ますよね。イタリア人のシェフも日本人のイタリアンは「ア・ラ・ジャポネーゼ」、つまり日本ふうだってよくいいます。カルボナーラなんかも伝統的なつくり方だと生クリーム使わないんです。でも、日本人は生クリーム使った方が食べやすいしってことで改良されていった。それは日本に限らず、どこの国でもそうだと思います。

——そういうイタリアでの経験が活かされたメニューができるようになるのもROCKにとっていい変化ですよね。今回の冬メニューでもちょっと変わったティラミスが入っています。

ティラミスは料理長の菊さんに「普通の食べ方じゃ面白くないから、何かちょっと考えてみて」っていわれて出したメニューですね。「こんな食べ方がありますよ」ってことで。

——マスカルポーネのクリームとクッキーが別々で出されているわけですが、あれって向こうではメジャーな食べ方なんですか?

いえ。ティラミスはサヴォイアルディというクッキーのような焼き菓子にエスプレッソとリキュールを染みこませて、そこにマスカルポーネのクリームを乗せて層にするのが伝統的なレシピです。今日本ではサヴォイアルディの代わりにスポンジケーキを使ったりもしますが。で、重ねた状態で冷蔵庫に入れて寝かせるというのが一番大事な工程なんです。カレーなんかもそうですが、寝かせることで味がなじんでマリアージュが生まれる。今回のレシピはあえてそれを別々にしているということです。

——イタリアでもちょっと変わった食べ方というわけですね。

そうです。サヴォイアルディをエスプレッソに浸けて、それでマスカルポーネのクリームをすくって食べてもらう。そうすることでエスプレッソの苦さ、クリームの甘さがそれぞれ鮮明になるというわけです。

清里はイタリアンにピッタリの土地

——「自分でお店を出せたら」なんて話も出ましたが、将来的にはお店を出したいんですか?

はい。もちろん今はROCKで働いていますし、ここを盛り上げられるように一生懸命やろうと思っています。実際に今お店を出す計画があるわけでもないので、本当に将来という話です。ただ、最初に面接をしてもらったときも「いずれは自分で店を出したい」という話はしています。

——萌木の村ってそういう人に抵抗がないですよね。社長(舩木上次)自身も「ここから清里を盛り上げる人材を出していくべき」なんて話をよくします。

自分も同じようなことをいわれました。「ここをうまく使ってくれ」「自分を踏み台にしていけ」って。すごいですよね。

——人材の独立って会社にとっては損失ですもんね。

だいたい引き留められるものですよね。ありがたいなと思います。さらにROCK、萌木の村ってやっぱり清里では清泉寮と並んでシンボリックな存在じゃないですか。お客さんを含めていろんなつながりがある。お店をやるにしてもただ始められるわけじゃないじゃないですか。いろんなつながりや信用があって初めてお店って成立する。ここで働くことで地域の人たちとつながりも生まれるだろうっていうのも大きな魅力でした。

——縁があったとはいえ、まだ清里に来て数か月ですもんね。お店には慣れましたか?

そうですね……慣れたんじゃないかな? 厨房でも「谷合君っていつ入ったっけ? 2〜3年経ってるんだっけ?」とか言われたり、そういう感じなので(笑)。

——なんかスッと入り込むタイプって感じがします。イタリアに行ったフットワークの軽さなんかを見ていても。

そういうタイプなのかもしれないですね。性格なのか、あまり人見知りもしないですし。イタリアも実はイタリア語全然知らずに行きましたし(笑)。

——それでどうにかなるものなんですか?(笑)

最初の数か月は大変でしたけど、どうにかなりますよ(笑)。

——将来出したいお店のイメージはあるんですか?

だいたいはあります。大衆的な、地域の人がいつでも寄れるようなアットホームな雰囲気のお店をやりたいです。このあたりはそういうお店も多いですよね。イタリアンのお店も増えてる。

——多いですよね。

環境がイタリアに似てるって話をしましたけど、それってつまり育てられている食材も近いってことなんです。高原野菜とか酪農の食材、さらに蕎麦なんかもそうです。

——え、蕎麦もですか?

イタリアではそば粉を使ったパスタもあるんですよ。日本みたいに細麺にするんじゃなくて、きしめんみたいに平べったくてちょっと太いパスタにするんです。それをジビエのソースと合わせて食べたりします。

——この辺はジビエも盛んですもんね。本当に似てるんですね。

だからこそイタリアンのお店が増えてるんでしょう。畑を持って自分たちで野菜やハーブを育てるところからやりたいってお店もあるでしょう? そういうお店の人たちと話ができるのも嬉しいです。北杜市って本当に恵まれた土地だと思います。北杜シェフズバルみたいなイベントもあるし。

——いろんなお店のシェフが集まって屋外で料理を振る舞うイベントですよね。

はい。面白いですよね。萌木の村でやってる八ヶ岳ベーカーズみたいなイベントもありますし。萌木の村はせっかく広いのでああいうイベントがたくさんあると楽しいなって思います。

——イタリアンのお店が集まるイベントなんかもあったら面白いですよね。

そういうこともあったらいいですよね。

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