「ROCK Re:birthday」で登場!
世界でも珍しいドイツホップ×ドライホッピングに挑戦する理由
八ヶ岳ブルワリー・松岡風人×うちゅうブルーイング・楠瀬正紘

6月8日、9日に開催されるROCKの大感謝祭「ROCK Re:birthday」。豪華アーティストによるライブなどに加え、目玉のひとつとして準備されているのがビールです。

今年もこの日のために用意された特別なビールが登場します。そのひとつが「スペースピルスナー」。ROCKに併設された八ヶ岳ブルワリーが、同じく山梨県北杜市にあるブルワリー・うちゅうブルーイングさんとコラボレーションしてつくる新しいビールです。

今回挑戦する「スペースピルスナー」、実はまだ世界でも珍しいスタイルのビールなんです。

一体どんなビールになるのか、八ヶ岳ブルワリーのヘッドブルワー・松岡風人とうちゅうブルーイングの醸造責任者・楠瀬正紘さんにうかがいました!

駆け足でハマったビールという沼

——今回の「ROCK Re:birthday」の目玉のひとつがうちゅうブルーイングさんとのコラボビールです。この話はいつ頃から進めていたんですか?

楠瀬 去年山梨県内のブルワリーで忘年会をやったんですけど、そこで話したんです。

松岡 で、せっかくコラボするならROCKの日にやろう、と。

——うちゅうブルーイングさんは去年の「ROCK Re:birthday」も参加してくださってましたよね。

うちゅうブルーイングの“隊長”こと楠瀬正紘さん。

楠瀬 ビール持って無理矢理来て(笑)。

松岡 いやいや、ありがとうございます。あれはすごく盛り上がりました。

——もう付き合い自体は長いんですか?

松岡 知り合ったのっていつでしたっけ?

楠瀬 うちがビールをやろうってときにお邪魔させてもらったんです。3年くらい前ですね。そのころにビールづくりを始めたんです。

——もともとうちゅうブルーイングさんは「宇宙農民」という名前で山梨県に新規就農してきたんですよね。

楠瀬 そうです。それでファーマーズマーケットなんかをやってた。それでアメリカのファーマーズマーケットなんかも視察していたんです。もともと僕も、いっしょにやってる鈴木(うちゅうブルーイングのクリエイティブディレクター)も根底にデザインがあるんです。僕はウェブをつくってたりしたし、鈴木は幅広くデザインをやっているので。アメリカのファーマーズマーケットに注目したのもデザインされているから。日本の「市」みたいな雰囲気と違って、すごくかっこいいんです。農家さんなんだけど、つくって売るだけじゃなくて、ちゃんと見せ方を考えている。それでアメリカで視察中にたまたま出会ったのがクラフトビールだったんです。そのとき飲んだのがIPAだったんですけど、「うわ、これ、すげえ!」って。衝撃でした。

松岡 初めて飲んだのが日本のIPAじゃなくてアメリカのIPAだと特に衝撃でしょうね。アメリカのIPAってパンチが半端じゃない。僕は現地で飲んだことはないんですけど、缶でもすごいんです。とにかく華やか。

楠瀬 すごい飲み物が世の中にはあるんだなって思いました。初めてコカコーラとかドクターペッパーを飲んだときくらいの衝撃がありましたね。

八ヶ岳ブルワリーのヘッドブルワー・松岡風人。

松岡 使っているホップ自体が華やかなんですけど、それをものすごい量使ってるんですよね。日本のIPAの比じゃない。ビールといったら「一番搾り」とか「スーパードライ」ってイメージだった人がそんなのを樽生で飲んだんですもんね。ビールの感覚狂いますよ(笑)。

楠瀬 もう「脳みそパッカーーン」って感じですよ(笑)。それですぐホップをつくることにしたんです。農家ですから。で、ホップを育ててる間にビールもつくりたくなって。最初は委託でつくってもらってたんですけど、自分でやりたくなって去年ブルワリーを立ち上げてしまった、と。

松岡 すごいですよね、ここ数年の動きが。

楠瀬 駆け足で自ら沼にハマっていってる(笑)。

——実際うちゅうブルーイングさんもIPAをつくっていますよね。

松岡 うちゅうブルーイングさんは入れるホップの量がアメリカ並ですよ。ほかと桁が違う。

楠瀬 ちょっと多いですね(笑)。

松岡 ちょっとどころじゃない、かなり多いですよ(笑)。

楠瀬 鼻がバカなんで(笑)。「全然匂いせんなあ、これ」って(感じでホップを入れてる)。

ジャーマンスタイルとアメリカンスタイルのコラボ!

——そんなうちゅうブルーイングさんとのコラボとなると、やっぱりホッピーで華やかなビールを目指したんですか?

松岡 今回は実はちょっと変わったピルスナーにチャレンジしてます。楠瀬さんがアメリカに行ったときに出会ったイタリアンピルスナーっていうスタイルを。

今回の取材はコラボビールの仕込み当日に行われました。

楠瀬 おそらくスタイルとしてもまだ確立していないくらいのビールなんです。

松岡 ホッピーなピルスナーですね。基本はピルスナーなので、見た目もクリアなんですけど、ホップがかなり効いている。

楠瀬 僕たちはホップが派手なビールをめざしてアメリカに勉強しに行ったんですけど、そのときに足を運んだ醸造所でいわゆるアメリカンなスタイル以外に「こんなビールもあるけど」って飲ませてもらったのがイタリアンピルスナーだったんです。これがすごく面白くて。「アメリカの醸造所だから派手な柑橘系のホップを使ってるのかな?」と思ってたら、ドイツホップの上品な香りをつけているみたいなピルスナーだったんです。

松岡 ドライホッピングをやってるんですよね。

——ドライホッピング、煮沸後、発酵も進んだあとにホップを入れる技法ですよね。煮沸しないからフレッシュな香りが加わるという。

松岡 そうです。ドライホッピングはアメリカンスタイルの華やかなホップを使うのが一般的なんです。華やかさを加えたいわけですから。でも、イタリアンピルスナーはドイツ系の上品なホップをドライホッピングに使ってる。

——ジャーマンスタイルの八ヶ岳ブルワリーとアメリカンスタイルのうちゅうブルーイングさんのコラボとしてはまさにピッタリのスタイルですね。

松岡 ドイツホップを使ってドライホッピングなんてあんまりないんで、先駆者としてやったら面白いんじゃないのって話になって、トントン拍子で決まりましたね。海外で流行っているものってこれから日本でも流行る可能性がある。だから、面白そうなものはやってみたいんです。やらないとわからないですから。

——仕上がりのイメージとしてはどんな味になる予定なんですか?

松岡 アルコール度数としては5%の予定です。うちのビールは5.5%が基本なので、普段のものよりやや低めですね。

楠瀬 味は苦めで、ボディも若干強め。コクも割とあります。

松岡 そうですね。王道のピルスナーに香りをつける感じなので、基本はピルスナーです。

——ピルスナーといったら日本でも定番のスタイルですよね。「キリンラガー」とか「スーパードライ」とか、日本の定番もピルスナーの一種ですし。1杯目としても飲みやすそうですね。

松岡 そうですね。もちろん乾杯で飲んでもらってもいいです。ただ、ホップが強いので1杯目にこれを飲んで2杯目に別のビールを飲んだら香りを感じなくなるかも(笑)。「飲み足りないな」「香りが弱いな」って。そういう意味では2杯目以降の方がオススメかもしれないですね。1杯目に飲んで別のビールの香りを感じなくなるっていうのも体験としては面白いと思いますが(笑)。

今回のコラボでは八ヶ岳の水がミラノの水に!?

——八ヶ岳ブルワリーは過去にファーイーストブルーイングさんなんかとコラボしてますが、うちゅうブルーイングさんはコラボって今までにやったことはあるんですか?

楠瀬 初めてなんですよ! ほかのブルワーさんの仕込みのときにお邪魔するのってこういう機会しかないんで勉強になりますね。

松岡 やってること違いますからね、各ブルワリーで。大きな工程は基本的に同じなんですけど、工程ごとの細かい部分がそれぞれ違うんです。

楠瀬 そういうのって実際見てみないとわからないんです。で、「それは何のためにやってるのか」っていうのを聞けるのはめっちゃ勉強になりますね。そこから「じゃあ自分のところで同じことをやるにはどうすればいいんだろう」とかってことも考えられる。

松岡 自分のところでやったらどうなるんだろうって考えますよね。

楠瀬 まあ、僕らはもう八ヶ岳ブルワリーさんにおんぶに抱っこで。

松岡 いやいやいや、そんなわけないでしょ(笑)。今回はうちの施設でやりましたけど、僕らもすごい勉強させてもらいました。うちゅうブルーイングさんに水の調節をしてもらったんです。

楠瀬 ミネラルをちょっと足して硬水に寄せました。

松岡 水って軟水と硬水で全然飲み方が違うじゃないですか。ビールにも適した硬水・軟水っていうのがあって、そういったところを調節してもらったんです。

——日本の水は全体的に軟水の傾向っていいますよね。八ヶ岳ブルワリーで使っている水もやっぱり軟水なんですか?

松岡 軟水ですね。それを今回ビールに合わせて硬水に寄せました。

楠瀬 ミラノあたりの水をちょっと強くしたくらいにしてます。

松岡 八ヶ岳の水をイタリアの水に(笑)。

楠瀬 劇的に味が変わるわけではないですけど、やっぱり雰囲気が変わりますね。

松岡 ホップの香り方なんかが変わりますよね。

楠瀬 そうですね。ホップの苦みの出方もちょこっと変わるかな。今回の調整だと若干ホッピーになりますね。少し苦みを感じるようになると思います。かなりソフトな調整にはしていますが、ちょっと外国感が出るはず。

松岡 水質調整をうちでもだいぶ前にやったことはあるんですが、ずっとやっていなかったので、いい経験になりました。調整にあたって水質の分析からやっているので。試験場に持っていって分析出してもらった。そのデータも財産になります。自分たちの使っている水について、今まではカルシウムがどれくらい入ってるか、硫化物どれだけ入ってるかっていうところまでは知らなかった。今後は説明もできるし、自分たちの水が世界のどこと近いのかもわかったりする。ビールづくりを始める前から勉強になりました。このあとのドライホッピングもなかなか自分たちだけでやる勇気は出ないですし。

新しいものをつくらないと経験値は上がらない

——ドライホッピングは以前のファーイーストブルーイングさんとのコラボでもやりましたよね。

松岡 あの1回だけなんです。もともとうちのタンクはつくり自体がドライホッピングに向いていないですし。でも、最近「これならうちのタンクでドライホッピングしてクリアなビールができるんじゃないか」ってやり方を見つけたので、今回はそれでやってみよう、と。ただ、何しろ僕はこれが2回目のドライホッピング経験なので。2回くらいじゃドライホッピング経験者とはいえないですよ。

楠瀬 手が震えますよね(笑)。今回だって2,000リットル仕込むわけですから。僕らはこの1年で57バッチ、ビールをつくってきたんですが、1バッチを除いてすべてドライホッピングしてるんです。それでドライホッピングによる事故は一度もなかった。でも、ドライホッピングって殺菌していないホップを入れるわけです。大丈夫だとわかっていてもやっぱり怖いんです。それによって事故が起こる、ビールがダメになる可能性もあるので。

松岡 そうなんですよ。うちも今まで醸造過程でビールの汚染が起こったことはない。でもやっぱり怖いんです。

楠瀬 醸造ってそういうものなんですよね。「(事故が起こる)かもしれない」「かもしれない」っていうのを毎回工程ごとに考えて、ひとつひとつ改善していく感じですね。

松岡 ビールって、たとえばオフフレーバー(好ましくない臭い)がついちゃったらリカバリーできないですからね。だから、悪い可能性があるものはひとつひとつ潰していかないといけない。そうやって不安要素を取り除いていってやっとできるんです。

楠瀬 でも、そうやって新しいことを成功させるとまた違う領域に行けますよね。

松岡 そうですね。一回成功したらワンランク上がる感じになるので。楠瀬さんもわかると思うんですけど、「こうやったらこうなっていくんだ」っていうのが経験になっていくじゃないですか。新しいものつくらないと経験値は上がらない。

楠瀬 そうですね。うちも自分で醸造するようになって、トライ&エラーがめちゃ早くできるようになった。1回結果出たら「ここがこうなってる」って自分のなかで組み立てて、「次はこう」「次はこう」って改良を重ねていけるわけです。それが面白いし、経験になっています。ビールって数字で管理してつくっているけど、同時に調整できるところがたくさんあるんですよね。

松岡 ビールは新しいスタイル、方法もどんどん生まれていますしね。ドライホッピングだって生まれたのは割と最近。昔からあるやり方ってわけではないんです。

楠瀬 うちがメインでやっているIPAだって最近のもの。特に濁っていて苦みが少ないIPAなんてこの5年くらいで出てきたスタイルですよね。そういう新しいスタイルがどんどん出てくるし、新しいスタイルが生まれると世界中でフォロワーが生まれる。それが面白いですね。

松岡 だから、今回みたいなまだ確立されていないような新しいスタイルに挑戦するのは面白いし、すごくいい経験になる。今回もどんなビールに仕上がるか、プレッシャーもあるけど楽しみです。

——6月8日・9日の「ROCK Re:birthday」がデビューですね。楽しみにしています!

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