72haの広大な牧草地から生まれる味…
ホルスタインの4分の1しか採れない特濃牛乳はどうつくられているのか

2017年に3代目店舗になってから、ROCKではいろいろなことが変わりました。そのひとつが牛乳です。

ジャージーミルクやジャージーカフェラテなど、清泉寮で知られるキープ協会の中の農場で育てられたジャージー牛の牛乳を使うようになったんです。

この牛乳が搾られる清泉寮ジャージー牧場は、ROCKのルーツともつながっている場所。ROCKの創業者である舩木上次のお父さんは、清泉寮ジャージー牧場の前身となるところで農場長をつとめていたのです。

だから、この牧場は舩木兄弟にとっては小さいころから足を運んでいた思い出の場所でもあります。

「やっぱりかわいいねぇ」と牛を見つめる舩木良。

今回は舩木兄弟のひとりである舩木良とともに清泉寮ジャージー牧場を訪れました。

牛乳の量はホルスタインの4分の1、それでもジャージーを飼う理由

よく晴れた4月のある日、牧場に足を運ぶと茶色いジャージー牛たちが並んでご飯を食べていました。現在牧場には現在120頭ほどのジャージー牛がおり、そのうち牛乳が出るのは80頭前後です。

清泉寮ジャージー牧場、牛舎近く。

日本で牛乳といえば多くの人がイメージするのが白黒模様のホルスタインでしょう。実際ホルスタインは乳牛として優秀で、たくさんの牛乳が出ます。個体差などもありますが、実に1頭で1日あたり50リットルもの牛乳が出るそうです。

それに対して、現在清泉寮ジャージー牧場で育てられているジャージー牛から絞られる牛乳は1頭あたり1日12リットル程度。量としては圧倒的に少ないです。全国でもジャージー牛は1万頭程度しかいないそうです。

茶色い毛とクリンとした目が愛らしいジャージー牛。人懐っこく、手を差し出すとペロペロと舐めてきます。

なぜそんなジャージー牛を育てているんでしょうか? それは清泉寮ジャージー牧場の成り立ちに関係しています。もともと寒冷地で農業に適さなかった清里でもできる食糧生産方法を確立することがこの場所の目的でした。その模索のなかで、キープ協会の創始者ポール・ラッシュ博士がたどり着いたのが酪農だったというわけです。

だから、育てる牛も標高が高く、寒冷な土地でも生きられる丈夫な品種が必要でした。特に当時の清里は今以上に寒さが厳しく、設備や技術も現在ほど十分ではありません。そうすると、牛のエサとなる牧草もなかなか育ちません。

ジャージー牛は、そんな土地でも育てられる、粗食に耐え、厳しい環境に強い品種だったのです。現在日本で育てられているジャージー牛も、その多くはここキープ協会から各地へ伝わっていったものだそうです。

気候の変化や技術の進化などもあり、現在では高冷地でもホルスタインが増えていますが、キープ協会では現在もジャージー牛を育てています。

東京ドーム15個分の牧草地が育てる濃い味

乳牛としての生産性は決して高くないジャージー牛ですが、その牛乳の味は普通の牛乳とは一線を画すものです。とても濃いんです。

搾りたてのジャージー牛乳。その濃さからか、白というより黄色がかった色をしています。

清泉寮ジャージー牧場の牛乳は、平均して乳脂肪分が4.8%前後もあります。良さんいわく「振っているとすぐバターができちゃうくらい」とのこと。時間が経つと脂肪分が上面で膜を作ったりもしたそうです。まさに特濃の牛乳なんです。

案内してくれた農場長の市村さん。

そして、もうひとつの特徴は安全、安心。清泉寮ジャージー牧場の牛乳は、全国でも珍しい有機JASを取得しています。農薬や化学肥料を使用せず、循環型を意識し、牛の糞を堆肥にして育てた牧草をエサにして育てているんです。

有機JASを取得したのは2009年のこと。有機JAS取得以前も基本的には自分たちで育てた牧草を中心にしてきましたが、以来ほぼ自家生産の有機牧草にシフトしました。

牧草が生えていない冬場は、夏に刈った牧草を乾燥させたエサと、発酵させたエサを使っています。「いい乾燥餌だね」とは良さん談。

自分たちで牧草を育て、それをエサにして乳牛を育て、その糞を使ってまた牧草を育てる。循環する自家生産の取り組みは、清泉寮ジャージー牧場の理想であり原点でもあります。

その分、広い牧草地も必要になります。現在清泉寮ジャージー牧場の牧草地は72ヘクタール。実に東京ドーム(4.7ヘクタール)15個分以上の広さです。

牧草地で使うトラクター。今年ももうすぐ出番です。

乳牛は牛舎につながれて暮らす場合も多いですが、ここではフリーストール方式という飼育法を採っており、牛舎内でもつながれず、自由に過ごしています。牧草が育たない冬場は牛舎の暮らしが中心ですが、夏場には生えている牧草を食べに牛たちも牧草地に出ます。ときどき脱走して歩いている姿を見かけることもあるそうです(笑)。

「脱走」とはいいますが、牛はとても賢い動物。牛舎でもつながれていませんが、柵を設けるときちんと並んで食事をします。また、群れの動物であるため、移動などの際もリーダーについて歩いていくそうです。

そうやって牛たちが暮らす広い牧草地があって初めて生まれるのが、清泉寮ジャージー牧場の牛乳なんです。

生んで育てる、命も循環する牧場

自家生産なのは牧草だけではありません。牛もここで生まれ、育っています。

母牛たちが集まる牛舎の近くには小さめの牛舎があり、ここで生まれた子牛たちが暮らしています。設備などは多少の変化がありますが、建物は良さんが小さいころから変わっていないそうです。牛舎の様子を見ながら懐かしんでいました。

子牛たちの牛舎で。「ここは本当に変わらないね」と懐かしむ良さん。

この牧場は基本的に乳牛、つまり雌牛を育てていますが、当然ながら生まれるのはメスばかりではありません。そのため、年によってオスが多く、牛乳の生産量に影響することもあります。効率や安定だけを追求するなら、完全自家生産は決してよい方法ではありません。しかし、「そこは何とかするしかないわな」と案内してくれた農場長は笑います。

生後数ヶ月の子牛。牛というより子鹿のように見えますね。

そうして育てた牛が初産を迎えるのはおよそ24か月後。つまり、牛乳が出るようになるのに2年かかるんです。

バケツに入った牛乳を飲む子牛。あっという間にバケツが空になりました。

このとき出る「初乳」と呼ばれる最初の牛乳は特に味が濃く、良さんたちが小さいころはありがたいものとして大事にされたそうです。

ちょうどご飯の時間で、モーモーと鳴いて餌をねだっていました。

清里の歴史と土地が生んだ味

広い牧草地と長い時間をかけてつくられ、しかも生産量は決して多くない清泉寮ジャージー牧場の牛乳。その濃厚な味は、清里の歴史と土地が育んだものといえます。

この日は富士山もきれいに見えました。

そのまま飲んで特濃の味わいを楽しむのはもちろんですが、味わいを活かして名物もつくりたいと良さんはいいます。

搾乳は1日2回。朝は3時に起きて6時ごろには搾乳を終えるそうです。

「カフェオレとかさ、この牛乳に合うものをつくれたらいいと思うんだよね。それがここの味になるじゃん」(良さん)

牛たちの暮らす牧場は独特の匂いがします。昔はその匂いが恥ずかしかったと振り返る良さん。しかし、「日本の空港に降りると醤油の匂いがする」というように、酪農が盛んなヨーロッパの国ではこの匂いこそが懐かしい匂いだという話を聞いて以来、誇らしくなったといいます。

新名物についてはROCKでもまだまだ取り組みの最中ですが、清里という場所だからこそ生まれた貴重な味、お店に立ち寄ったときはぜひ味わってみてください。

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