ここに来たら自分が小さく思えたことが糧
——フロアチーフ・武藤翔インタビュー

いろんなスタッフが働いているROCKですが、なかでもホールスタッフはお店の顔といえる存在です。お客さんのなかにはスタッフのことを覚えてくださる方もおり、スタッフの励みになっています。

そんなお店の顔のひとりといえるスタッフがフロアチーフの武藤翔です。フロアでもひときわ明るく、お店を盛り上げています。

実はこの武藤、来年2019年から1年間、カナダに渡る予定となっています。海外行きを前に、改めて武藤がどんなことを考えているのか、話を聞きました。

「お店のため」というより「あいつのため」に働きたい

——武藤さんっていつ頃からROCKで働いているんですか?

武藤翔。

6年くらい前、23歳のときですね。大学卒業後に新横浜の会社に入ったんですけど、デスクワークに向いてなくて(笑)。じっとしていられないタイプなんでしょうね。それで(山梨県北杜市の)小淵沢の実家に帰ってきたんです。それで1週間くらい経ったころに、当時地元の銀行で働いていた兄に「ちょっとお前、外出ろ。面白い人に会わせてやる!」って言われて。それで紹介されたのが萌木の村の社長・舩木上次だったんです。

——ROCKってすぐ直接社長と会ってっていうパターン多いですよね。

そうですね(笑)。それも社長の人柄だと思います。社長さんと会うってことで、僕はビシッとスーツでかっこつけて行ったんですけど、そうしたらいつもの(スーパーマンのTシャツ姿の)かっこうの社長が出てきて。「この人が社長!?」ってビックリしました(笑)。

——ROCK自体は以前から知っていたんですか?

高校時代に1度食べに来たことがあったので存在は知っていましたが、1回だけだったからその当時は場所もうろ覚えでした。でも、ずっと飲食店のバイトなんかはやっていたし、バイト先も探していたので、そのまま働かせてもらうことにしたんです。

——じゃあ、最初は本当にバイトとしてって感じだったんですね。

はい。海外に行きたいっていうのがあったので、お金を貯めたくて。

——本格的に「ここで働こう!」と思うようになったのはなぜなんでしょう?

3年目くらいのころですかね。(現・ROCK総支配人で萌木の村取締役の)三上の存在が大きいんです。同い年でカリスマ性があって、「僕も負けられない! 何かしたい!」って自然と思わせてくれたんですよ。ROCKのためというより、「こいつのそばで働きたい!」って思うようになって。そのころに三上が社員になったんですが、しばらくしてほかの社員が抜けることになって社員が三上ひとりになってしまうことになったんです。そのときに「翔が社員になってくれれば助かるな」っていってくれたんです。三上本人は何気なく言ったのかもしれないですけど、僕はそれがすごく嬉しくて。「あいつが俺を求めてる!」って(笑)。

——そういうのありますよね。「相手はそんなに覚えてないんだろうけど、こっちはすごく嬉しくて覚えてる」みたいな。

はい。それとお客さんの存在ですね。「武藤くん、いいね」なんて言ってもらえるのがすごく嬉しくて。それで「じゃあ、社員をめざすか!」って気持ちになりました。

——今日も(インタビュー前に)いろんなお客さんに話しかけられてましたよね。

そういうのがすごくやりがいになってます。ホールスタッフのやりがいってやっぱりそこなんです。僕たちは料理をつくれるわけでもないから、自分たち自身が商品で、そこでどれだけ付加価値を付けられるかが大事になる。「僕に会いに来た」って言ってもらえたらそれが一番嬉しいんですよね。

「自分がやればいい」はお店のためじゃない

——ホールスタッフってまさにお店の顔ですもんね。

自分だけでなく、スタッフみんなが顔になったらいいと思ってます。それはフランス人スタッフに気付かされたことでもあります。(2016年にROCKの店舗が全焼した)火災から復興した年に、フランス人スタッフが2人入ってきたんです。それまでも海外から来ているスタッフっていたんですが、基本的にお店では「看板」という役割で、あまり積極的に接客をしてもらっていなかった。「お店にいてもらうことに意味がある」って形だった。でも、あるときそのフランス人スタッフから「私たちは奴隷じゃないよ」って言われたんです。「私たちは日本語もできるし、なんなら日本語を勉強にしきてるんだから、もう少し私たちのことを信頼して(仕事をやらせて)ほしい」って。それまで、やっぱりどこかに「自分がやればいいや」って気持ちがあったんですね。お店のためにといいながら、自分がやった方が楽だからっていうような。

——慣れないところでいろいろやってもらうより、自分でやってしまおう、と。

はい。でも、それってもったいないなって。その人たちの可能性を閉ざしてしまっていた。それで、いろんなことを任せるようにしたら、すごく面白くなったんです。僕にはできない「こんなことができるんだ!」っていうことがたくさんあった。たとえミスがあってもそこは僕らが謝ればいいことだし、任せることでお店としていろんなことができるようになったし、僕自身も楽になっていきました。それに気付かせてくれたのがすごくありがたかった。

——人に任せるって、実は難しいんですよね。

そうなんです。それまでって、どこかで全部自分でできるって思ってた。けど、これだけ大きいお店だとひとりでは何もかもはできないし、仮に僕が5人いてもつまんないお店になると思う。スタッフ一人ひとりの個性が出るというのが、ROCKらしい接客だと思うんですよね。それぞれの適性を見分けるのは難しいですけど、なるべくいろんなことをやらせてあげたいなと思っています。ROCKはそういうことができるお店だと思うので。

石積みで出会った「棟梁」という存在

——学生時代も飲食店でバイトしていたってことですけど、やっぱりROCKはちょっと違いますか?

違いますね。これだけの規模のお店というのもありますが、お客さんもスタッフも本当にいろんな人がいる。それが面白いですね。仕事もレストランだけに限らないですし。

——たとえばROCKのお店以外ではどんなことをしているんですか?

たとえば、ポール・スミザーさんの庭づくりのお手伝いをすることもあります。やっぱりお客さんに説明するためには自分たち自身が庭について知っていないといけないですから。それと、印象的だったのは火災のあとに石積みをしたことですね。

——ROCKのお店の周りの石積みですか。

はい。輿水さんという職人さんにやっていただいているんですが、お店の前の石積みなんかは僕らもいっしょにやらせてもらったんです。それがすごく楽しくて。ものづくりっていうのが初めての経験で、自分たちがつくったものがああやって目に見える形で残るっていうのはすごく達成感がありました。それと、輿水さん自身の存在も大きいです。普段はすごく優しいんですけど、ああいう工事ってやっぱり何かあると命に関わってしまう。だから、ダメなことをしたときはすごく叱られるんです。怒鳴られたりもするんですけど、それでもあの人についていきたいって思えるような……本当に棟梁なんですよね。僕たちの好きにさせてくれるし、ちょっとくらいのミスでは全然怒らないし、「こうしたらいいんじゃねえか?」っていろんなアドバイスをくれて、しかもいざというときは頼れる。そういう人間がかっこいいなって思うんです。僕はもともと社員とバイトって区別はあまり好きじゃなくてROCKでも「みんな仲間」って感じなんですけど、その上で自分がいざというときに頼れる存在になりたいなって思わせてくれたのが輿水さんでした。

武藤もいっしょに積んだROCK前の石積み。

——武藤さんの話を聞いていると、すごくいろんな人の話が出てきますね。

清里という場所もあるのかもしれないですけど、ここは本当にいろんな人がいるんですよね。昔僕は「自分は普通の人種ではない」って思ってたんです。ちょっと元気で明るくて、みんなと仲良くなって「あいつバカやってんな」っていう。でも、ここに来たらそんな面白さなんて全部消えてしまった。ちゃんとした面白さというか、面白さとかっこよさが隣り合わせになってる人がたくさんいて、自分が小さく思えたんです。それで、もっと成長したいって気持ちになりました。自分の経験が少なかったのもありますけど、萌木の村っていろんなプロフェッショナルや個性が集まる場所だなって思います。

言葉だけの対応でなく、海外の人の喜ぶところを案内したい

——来年にはワーキングホリデーでカナダへ行くそうですね。

はい。もともと海外に行きたいという気持ちもあったし、ワーホリは30歳までという年齢制限もあるのでここで行っておこうと。ROCKの火災もあって考えていたよりも遅くなってしまったんですが、新しい社員も入ってお店を離れても大丈夫かなと思えるようになったので。

——カナダというのはなぜなんですか?

清里と環境が似ているんです。山の近くにあって、スキー場がいくつかあってという感じで。まずはバンクーバーで3か月ほど学校に通う予定なんですが、そのあとはいろいろ体験したいと思っています。飲食店を見たいのというのももちろんありますが、今まで飲食しかやってこなかったので、ほかの仕事も見てみたいなと。ツアーガイドとかそういう仕事にもチャレンジしてみたいです。なにより文化を見たいなと思っています。清里と同じような環境で、カナダではどんな生活を送っているのか。そこに住んでいる人たちはどういう価値観で、どんなふうに暮らしているのか、どういうお店に行っているのか……そういう普通の生活を知りたい。

——どれくらい行く予定なんですか?

1年です。

——おー! 長いですね。

はい。帰ってきたらまたROCKに戻ってくる予定です。

——それだけ長い期間離れられるのもROCKらしいですね。

本当に。実はワーホリに行くタイミングで辞めようかとも思っていたんです。実家が小淵沢で喫茶店をやっているので、その店を継ごうかな、と。でも、実は僕、先日婚約しまして。

——え、そうなんですか。おめでとうございます!

ありがとうございます(笑)。結婚は帰ってきてからなんですが、待ってくれるというので。で、そうなると生活の不安もあるし、まだここでやりたいこともあるので、もう少しROCKで働かせてもらおうと。

——じゃあ、いろんな意味で帰ってきてからも楽しみですね。

そうですね。もっと外国の方に対応できるお店にもしたいですし。お店の名前はROCKなのに、今英語を喋れるスタッフが全然いない。僕も接客くらいならできるんですけど、「清里ならこんなところがオススメですよ」とかフランクに会話できるほどではないので。ちゃんと英語のメニューもつくれてないですしね。

——確かに清里は海外から来ている人も多いですよね。

はい。単純に英語ができるというだけでなく、海外の人にとっての魅力を考えるのも対応だと思うんです。たとえば、台湾の人は雪が降るだけですごく盛り上がってくれたりする。地元の人は雪が降るとむしろあまり外に出なくなりますけど、台湾の人にとってはそれが魅力だったりするわけです。そういうところは清里にとってチャンスだと思うんですよね。

——出発はもう少し先ですが、帰ってくるのも楽しみにしています!

僕も1年でお店がどう変わっているか、楽しみにしてます!

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