八ヶ岳のパン屋・焼き菓子屋が萌木の村に集結する『八ヶ岳ベーカーズ』。今年の秋は2020年10月11日(日)に行われます。イベント開催に向けて、出店するベーカーズおひとりおひとりを紹介する特集記事をお届けします。
第10回目の対談は、『おうちパン屋Hands hands』の小林佳恵さんです。八ヶ岳ベーカーズではお馴染みの小林さん、2019年秋の開催前にも取材をさせていただきましたが、さらに深く!小林さんのパン作りやライフスタイルについて伺いました。
―今回も八ヶ岳ベーカーズに参加していただきありがとうございます!小林さんはいつからパン作りを始めたのですか?
小林 子供が生まれたのと同時にパンを本格的に始めました。それまではずっと専門職に就いてたんです。長男が生後3か月の時に、パン屋さんの門を叩いてレストランと併設した鎌倉のお店で働いていました。早朝4時前くらいから製造を手伝って7時位に一度帰ってきて、授乳して9時くらいからまたレストランに行ってバイトをする、という生活でした(笑)そのパン屋さんがすごい好きだったんですよ。実家も近くて。絶対私ここでやるんだって何か思っちゃったんですよね(笑)
―すごいハードスケジュールですね!
小林 はい。鎌倉のお店では製造スタッフとして1年間働き、その後に移住しました。パン屋に勤めた後独立し、最初にやったのがパン教室です。保育園に行かせた後自宅を開放してやってました。だんだんと、卸してみたらいいんじゃないとか、色々繋がりが出来ていく中で色んな方法が見えてきたんです。パン屋以外にも飲食はあると思うんですけど、パンはいろんな形で、自分のペースで出来るってことがわかったんです。
―子育てしながらできる仕事として小林さんにはぴったりだったんですね!
小林 はい。卸しをするために工房を建てたり、子供連れで行けるようなイベントに参加したりしました。外に納品できるし、お店を開く事もできる。技術として教室を開くこともできる。パンて色んなパターンで関りが持てるなと思いました。ちゃんと工房があれば田舎でも都会でも関係なくパンを提供できるなと思いました。だから子どもや家族の形って変わっていくと思うんですけど、それに臨機応変に対応してやってこれたので、パン屋を選択して良かったなって思います。
―北杜市に移住したきっかけって何だったんですか?
小林 きっかけといえば、子どもが1歳位になり、公園で砂を触るようになって、街の中の土を汚れているよって言うのがすごく嫌で、ここは子育てする所じゃないなって感じるようになったんです。両親が大泉に別荘を持っていた関係で、小さいころからよく遊びに来てたし、主人との出会いが山小屋ってこともあり、いつかは八ヶ岳に住みたいって思ってたんです。じゃあそのためにはお互い何か手に職をつけようよって。18年前なんてこの辺もやっとオギノとかでき始めたばっかりの時だったんで仕事は無いだろうて思って、だから自分でできる何かを探しましたね。
ーそうですね。自然環境が良くても、やはり都会と比べると職は選べないイメージです。移住してからはすぐにおうちパン屋さんとして活動し始めたんですか?
小林 越してきてから入ったパン屋さんは、清里にあったフィールドマジックと言うところでした。そこも移動販売中心のパン屋さんだったんです。日中焼いて販売しに行く形だったので日中にパンの製造ができる人を募集していたんです。そこは、パンが売れ残ると冷凍してネット販売したり、やり方が独特でした。場所が奥地だったからお客さんがしょっちゅう来るかというとなかなか厳しい立地条件だったんだけど、そうやって色んな売り方があるんだって知れたんです。
―パン作りとか食材にこだわりはありますか?
小林 国産小麦を使いたいって言うのと、生活クラブ(農薬や添加物などの基準が厳しい生協)っていうのに入っていてそこの素精糖と牛乳と、黒富士農場の卵を使ってます。あとは主人が畑をやっているのでその野菜を使ったりとか、なるべく顔が見える範囲のものでやりたいなと思っていますね。あと、山梨県内で穫れる小麦「ゆめかおり」を震災の年に初めて、パン教室の生徒さんたちと、移住されて農場やってる方に教わりながら栽培してみたんです。最後はピザやパンにして食べたんです。でもパン屋として使うとなると、なかなか品質が安定しないんですよね。風味も北海道産よりはちょっと落ちちゃうし。だから100%で使うのは難しいので北海道産とミックスして使っています。
―今出しているレシピは何種類くらいあるんですか?
小林 12~13種類類ですかね、市場に卸しているから小物のパンよりは大きな食事パンの方が出るんですよね。バターロールみたいな小物でも5~6個詰めて出したりとか。もともと袋がもったいなくてやってたんですが(笑)最初に売る時もまとめて売るようにしていたんです。それを継続してやってる感じです。あとは育児支援センターに昼時販売しに行ってたんですけど、それは小物パンが中心で12~13種類焼いていました。育児支援センターに行ってた時は季節の食材を使ってたんですけど、スーパーに卸す時は安定感を大事にしたかったからカンパーニュ、食パン、とかオーソドックスなパンですね。
―卸しでやっていると、お客さんの声を聞く機会があまりないのでは?
小林 そうですね。卸しで残念だなって思うのは直かに声が聞けないことですね。八ヶ岳ベーカズとかだと、「いつも市場で買ってます」とかお会いしたことがなくてもパンの方が先に会ってる方たちが本当にたくさんいらしてくれます。育児支援センターに出していた時なんですけど、子どもはすごい正直ですよー!気に入らなければ「違う!」って言うし(笑)でもメロンパン見つけて抱えていく子どもたちを見ると、あぁこの仕事してて良かったなって思うし。初めて食べる離乳食のパンだったりするので変なもの入れないとか安心して食べられるパンを作りたいと思ってました。しかも支援センターの場合はダイレクトに会話できるのがすごい貴重でしたね。
―今は卸しだけでやっているんですか?
小林 はい。木~日で卸していて、水曜日が仕込みの日ですね。月火は隣に工房があるのでなるべく工房に入らないようにして、ハイキングに出掛けたりしてます。水曜は木金二日の仕込みをして金曜焼き上げたあとまた仕込みをしています。低温で冷蔵発酵して12時間くらい生地を休ませて朝常温に戻してそこから分割始めます。朝は3時半位に起きて4時半くらいからスタートするんですけど焼き始めると仕込みには全然手が回らないいですね。それで9時くらいに焼き上げたら両親が梱包と配達の手伝いに来てくれるんです。そのあと育児支援センターに持っていったり仕込みの準備をして、出張販売に行ってる間に生地を発酵させて、そうすると15時くらいに子供たちが帰ってくるんです。そんなこんなで、お店で販売をする時間が今のところはなくて。
―今後の展望などあったら教えてください?
小林 そうですね、できれば山梨県産の小麦をもっと使っていければいいなと思います。あと、なんだろう、、、パン屋さんで成功したいとか雑誌載って有名になりたいとかそういう事じゃなくて、ネット通販とかいろんなやり方はあるけど基本は顔の見える範囲で町のパン屋さんでいたいなっていう気持ちがすごくあります。展望としては子育て7割くらいですが、パン作りは自分を表現できるものだと思っているので、その割合が家族が離れて行けば増えていくんだと思います。でもやっぱり焼いて市場に持っていってお客さんに「これ朝ごはんにするんですよ」とか言われると幸せだなーって思いますね。だから地に足つけてちょっとずつですね。今までも手探りでやってきてどんな方法でも出来るっていうのがわかったので。でもやっぱりこの地域の人達に焼きたてを食べてもらいたいと思うので、お店をやりたいなっていうのは目指す先にはありますね。
―八ヶ岳ベーカーズは他のイベントと違いありますか?
小林 そうですね。西鍋さん(企画者のROCKスタッフ)の思いがダイレクトに伝わる、目的があるイベントだと感じます。大きいスーパーとかでやるイベントにも参加させてもらったんですけど、何度か開催しているうちに、だんだん集客目的になっていってしまうイベントがありました。そういう意味ではベーカーズは課題を自分で見つけて、こういうことをやってみたいとか目的がすごく明確なので参加している方も楽しいです。以前もお話したんですけど、ベーカーズの一発目の取材を私に入れてくれたのがすごく嬉しくて。お店を常時開けているわけではないから、取材の電話が掛かってきても「こういう営業形態なんです」って言うと断られるとこが多いんですよね。週4日パンを焼いているのにも関わらず週1日だけ開けているパン屋さんにフォーカスしたりとか。自分で選んできた道なんで後悔は無いんですけど、同じパン屋なんだけど認められていないような気がして。。。そういう場に出られないことの悲しさはありました。そこを西鍋さんが切り開いてくれたんですよね。普段は表に出ないパン屋さん・焼き菓子屋さんを出すと言うのがベーカーズで、そこで知り合ってもらいたいって言うのがベーカーズの主旨なのでとても楽しいんですよね!
―小林さんは、主催者より誰より一番このイベントを楽しんでいるように見えます!今回もよろしくお願いします!