八ヶ岳のパン屋・焼き菓子屋が萌木の村に集結する『八ヶ岳ベーカーズ』。今年の秋は2020年10月11日(日)に行われます。イベント開催に向けて、出店するベーカーズおひとりおひとりを紹介する特集記事をお届けします。
第9回目の対談は、『コーナーポケット』の小野曜さんです。コーナーポケットは山梨県民に一番馴染みのある町のパン屋さんではないでしょうか?身近だけど知らなかったコーナーポケットの歴史や、今後の夢について社長の小野さんにお話を伺いました!
―はじめまして。八ヶ岳ベーカーズでは「山梨のドン」と名付けてしまいましたが、小野さんは「山梨県パン協働組合」の理事長さんなんですよね!そんな偉い方とお話しできて光栄です。さっそくなんですが「コーナーポケット」の名前の由来はなんですか?
小野 辞書で調べると、「ビリヤードの四隅のコーナー」の事なんです。学生の時からビックバンドジャズをやっているんですけど、僕の大好きなカウントベイシーオーケストラっていうバンドの十八番の曲のタイトルなんです。学生の頃からその曲が好きで演奏したいと思っていました。今もそうなんですけど、想いがあって、最初は難しくて出来ないと思ってもコツコツ努力していけば少しづつ上手になるしやればやるほど自分の味が出てくる。やればやるほど深い、パンを作るのと似てると思ったんですよね。
―曲のタイトルからきてたんですね!創立37年の歴史があると伺いました。やはりその中で紆余曲折はありましたか?
小野 全然ダメっていう事は無かったんですが、消費税上がった時とか、技術者が揃わなかった時とかはありましたね。若かった頃はお店をどんどんお店を広げた時期もあって、8店舗くらい出してた時があったんですよ。各店舗でパンを焼いてたんで技術者不足になっちゃって。自分の思い描いていたパン屋からどんどん外れて行っちゃって。だから広げたり縮小したりしてやっていましたね。まだ自分の想いというか力量が足りないなと痛感しましたね。
―そうっだったんですね。コーナーポケットさんのパンはどれをとっても安定したおいしさで、「看板商品」と言えるものもたくさんありますよね。常に並んでいるのは何種類くらいあるんですか?
小野 今は110くらいあるんじゃないかな。毎月3~4種類くらい新商品を出していて、あとはお客さんからのリクエストが多かったものを継続してやっているのでそれくらいなっちゃうんですよ。9月はモンブランとか金時芋、ナッツ類とかを使ってます。夏だとカレーパンですね。あとは夏野菜の〇〇とか。季節にぴったりすぎるよりちょっと先取りを意識しています。
―カレーパン祭り面白かったです!激辛のカレーパンの激辛加減がこんなに本気の激辛とは思いませんでした!!(笑)
小野 あとパン屋は焼きたて!ていうイメージなんですけど私たちは夏は『冷やしても美味しいパン』ていうのをやっています。実際に美味しいんですよ。デニッシュ系とか、スイーツ系のパンは冷やすと美味しいです。
―毎月の3~4種類の新商品を出すのは結構大変だと思うのですが、商品開発する人は決まっているんですか?
小野 そうですね。できるだけ全員でやりたいんですけど、ベテランでも企画するのが得意な人と作るのが得意な人がいます。試食はみんなでやってこれは良いとか、これはこうしようとかやっています。販売の人の意見はよく聞きますね。
―みんなの意見を聞いて新商品を作っているんですね。これだけのパンの種類がありますが、製造は24時間体制で行っているんですか?
小野 いえ、基本的に朝6時からで15時終わりです。働き方改革っていうのもあるし改善していかないとね。パン屋さんは朝早くて夜遅くまでっていうイメージを払拭しないとイメージ悪くなっちゃいますから。ケーキ屋さんとかパン屋さんて憧れっていう人もいますけど現実は重労働が多いですしね。ドウコンを使って生地をコントロールしたり、発酵の工夫をしたり、エアコンもかなり効かせて工場がこうあれば良いなっていうイメージでやっています。
―従業員は未経験者はいらっしゃるんですか?
小野 いますよ。逆によそで修行してきた人より未経験の方が教えやすいですね。変な癖がついていないので。以前ベトナムからの外国人研修生がいたんですけど、帰国してからベトナムでお店を出している人もいます。メールでベトナムのお店の写真を送ってくれるんですけど、日本と同じ様なパンが並んでるんです。製パンにも外国人研修生向けの技術検定があって1年目と3年目に試験があるんですよ。実技は仕込みから焼成まで、学科試験もあります。
―すごいですね!アジア圏では日本のパンが人気と聞きました。日本と同じようなクオリティのパンが食べられればきっと繁盛しますね!買いに来るお客さんは観光客より地元の方が多いんですか?
小野 そうですね、コロナの規制が終わったので週末は県外の方も結構多いです。ここは清里行く途中の休憩地点なんですよ。隣の金精軒さんとうちのコーナーポケットで141号線のランドマークにしたいと思っているんです。「あそこの和菓子屋さんとパン屋さんまで来たらあと3∼40分で清里着くぞ!」っていう目印になればいいなという想いがありますね。
―そんな想いもあったんですね!
小野 ここではお客さんに無料のコーヒーも出しているんですよ。ここでコーヒー飲んでホッとしてもらったり、別荘に行くときに食事パンを買ってもらったり、おやつは隣の和菓子屋で買ってもらったりして利用してくれる県外の方もいらっしゃいますね。
―コロナ自粛期間はお店は開いていたんですか?
小野 ここは開いていました。僕たちとしては、逆にコロナだからやらないといけないなと思っていました。皆さんの生活懸かっているのに、学校は休みになってるでしょ。スーパーは開いてるけどそういうところでパンを買う喜びと、パン屋で買う喜びはちょっと違うんでしょうね。わざわざ買いに来てくれるお客さんがいらっしゃるんですよ。コロナ禍でお店にいらしたお客さんでも人々の距離を気にしたりピリピリする中で、こちらが穏やかになって「ゆっくりお選びください」とか「今焼きたてです、美味しいですよ」とか声を掛けるとホッとした顔をしてくれる。それを見れるのは嬉しいし、そういうのも僕らの仕事なのかなと思います。昔は3密が当たり前でそれじゃないと繁盛しなかったんですけど、このご時世で3密がダメだってなった時に僕らパン屋の使命としては、まずはお客さんに喜んで頂ける事をする。そのためにはお店を閉めるわけにはいかないですから。
―コロナがあり、良くも悪くも新しい時代に変わってきている気がしますね。今後、どうしていきたいとか展望はありますか?
小野 夢みたいな話なんですけど、農場を持ちたいんですよ。まずは小麦畑を作りたい。昔はその農場を馬で見回りが出来ればいいなと思っていたんです。夢ですよ(笑)今はスーパーカブがいいなって思ってます(笑)自分のとこで穫れる小麦で、パンだけじゃなくてうどん、パスタ作ってみたい。小麦文化・小麦の物語を作りたいですね。僕すごい食いしん坊なんで、何でも食べたいんです。だから小麦から分類したもので、あそこはうどん屋があるよ、ここはパスタをやってるよ、パン屋をやってるよ、隣の養豚屋ではソーセージ売ってるよという風にできたらなと思ってます。それで文化が成り立つじゃないですか。
―自家製の小麦で、パンと、うどんと、パスタって夢があります!国産小麦の普及にも繋がりますね。
小野 でも1人じゃできないから、昔で言う共同農場をやりたいですね。そこで文化が作れそうな気がするんですよね。ここは年寄りも多いからみんなで協力してやったりしたら楽しいだろうね。そういうところに憧れて人が集まればこの辺ももっと活気が出ると思うし。例えば清里なんかは人がどんどん入って来てたけど、まだ物語が短すぎて今はちょっと活気がなくなっている気がします。白州町なんかは物語が本物になってきてる気がするんですよね、百数年続いている酒造とか和菓子屋さんとか、何代も続いている農家さん林業の方がいらっしゃるんですよ。私が見た感じでは白州は活気があるなと思うんですけどね。目立たないし欲が無い感じなんですけど、農家さんは協力し合ってやっていたりとか。そんな利他の農場を作りたいんですよ。若いころはそんなことは思わなかったんだけど人に助けてもらうっていうのはそれなりに自分でも努力しないとできない事だと思いますね。あとは年齢との闘いですね(笑)そんな夢かな。あとは、仲間とラッパを吹きたいんです!
―富士山、八ヶ岳、南アルプスに囲まれて美味しいお水もあるし、広い土地もある、農場ができる条件は揃っていますね。実現しそうで楽しみです!今日は貴重なお時間ありがとうございました。ベーカーズでもよろしくお願いします!