総支配人・三上が聞く!Vol.04
「“自由なコーヒー集団”が勝手に仕事になればいい」AKITO COFFEE・丹澤亜希斗さん

ROCKの若き総支配人・三上浩太が「今会いたい人」「話をしたい人」に声をかけて、飲食店という枠を超えた話をするシリーズ「三上が聞く」。第4回目となる今回は、三上が普段からよく話題に出す山梨県甲府市のコーヒーショップ・AKITO COFFEEの丹澤亜希斗さんにお話をうかがいました。

丹澤亜希斗さんはなんと三上と同じ1990年生まれ。23歳のときにAKITO COFFEEを立ち上げ、今では甲府の人気店になっています。同世代のふたりは今、どんなことを考えているんでしょうか?

【丹澤亜希斗】
1990年山梨県甲府市出身。東京都内の専門学校を卒業後独学でコーヒーを学び、2014年、23歳の時に地元・甲府でAKITO COFFEEをオープンした。
https://akitocoffee.com/

「いい天気ですね」と声をかけるコーヒー屋さんの面白さ

——おふたりはともに1990年生まれの同級生なんだそうですね。知り合ったきっかけは何だったんですか?

三上 何だったっけ?

丹澤 2年くらい前の「清里ウイスキーフェスティバル」じゃないかな?

三上 あー、そうだそうだ。僕は前からAKITO COFFEEのことは知っていたんです。甲府で若い人が面白いコーヒー屋さんをやってるって。それで、いつか何か頼みたいと思っていたところにウイスキーフェスティバルが来て。こういうイベントにはコーヒーもなきゃダメでしょってことでアプローチしたんです。

丹澤亜希斗さん

丹澤 ありがたいことですよ。萌木の村って大きなところなので、お堅いイメージだったので、まさか三上くんみたいな人がいるとは思ってなかったんです。23歳でお店を始めたんですけど、そうすると同世代の人ってあんまり仕事をすることがなかった。10歳くらい上の人とやりとりすることが多くて寂しいなと思っていたところに、同い年の三上くんと出会えて本当に嬉しかったんです。

三上 AKITO COFFEEを始めたのは、大学を出てからとか?

丹澤 いや、僕、大学行ってないんですよ。専門学校に行ってたんですけど、それもコーヒーとは全然関係ない、建築とかインテリアデザイン、商業デザインの学校で。そこで「何をしようかな」って感じで2年間フラフラしてました。それで、就職活動をするってころに「自分でお店を持ちたい」って思うようになったんです。当時からいろんなところに行ったり、人に会ったり、何かつくったりっていうのが好きで、何かつくろうってことで和食をつくったりしてました。和食だったのも特に大きな理由はなくて、たまたま知り合いが和食をやってたから修行に入らせてもらって、お店をやる準備をしてたんです。お店って人と接する仕事でもあるでしょう? だから、第一に人と接する仕事ってことでお店を考えてたんです。

三上 コーヒーに決めたのはなんで?

丹澤 それもそんなに理由はないんです。でも、ちょうど僕がお店を始めた5〜6年前って、東京でサードウェーブと呼ばれる文化が注目され始めたころなんです。それまでコーヒーっていうと、喫茶店で仙人みたいな職人さんが感覚を研ぎ澄ませて焙煎する……みたいなちょっと堅いイメージで。スターバックスが入ってきて少しフランクになりましたけど、サードウェーブでまた変わった。その流れのコーヒースタンドを見て、お客さんとの距離感に衝撃を受けたんです。今僕らもそうなんですけど、コーヒースタンド、コーヒーショップってお客さんと「初めまして」って話するんですよ。その業態ってコーヒー屋しかないと思ってて。レストランとかで「初めまして、今日いい天気ですね」って料理を出したりしないでしょう? コーヒー屋って日常的な会話が当たり前に生まれるんです。その距離感がいいなと思ってコーヒー屋さんに決めたんです。そこから豆の研究を始めていったんです。飲食はなんでもそうですけど、自分がつくるものの先に絶対「人」がいる。よりいいものを届けたいとか、もっと僕らの知っている好きなコーヒーを届けたいって気持ちがあって技術が上がっていくんですけど、結局は最終的に人に届くから楽しいんです。勉強して最高のものをつくって自分で飲んでも何にも楽しくない。

三上浩太

三上 この対談では必ずそういう話が出てきますね(笑)。第1回でお話しさせてもらったボーペイサージュの岡本さんもそうだった。ワインは人を喜ばせる手段のひとつだって。

丹澤 本当そうですよね。岡本さんは面白い。僕も滅多に話す機会はないですけど、時々お会いするといろんな話を聞かせてもらいます。

三上 そういう感覚って現在のメインストリームになりつつあると思うんです。

同じ人にまた1杯を出せるのが山梨のコーヒー

三上 僕はAKITO COFFEEができて、甲府の街の雰囲気が少し変わったとも感じているんです。ただのコーヒー屋さんというより、コミュニティをつくる役割を果たしてる。それがすごいと思うんです。

丹澤 甲府って面白いんですよね。僕は甲府出身で、何となく東京とかでなく甲府でお店をやろうって思ってたんですけど、やってみてこの場所の魅力を感じています。たとえば、うちのスタッフに渋谷でスペシャルティコーヒーを出すお店で働いていた子がいるんです。それこそ世界中からお客さんが来る、日本一スペシャルティコーヒーを出しているんじゃないかというようなお店。でも、常連さんの割合は甲府の小さなお店であるうちの方がずっと多いんです。うちは今でこそ週末になると県外から来てくださる方も増えたけど、平日なんかは「どうも!」なんて感じで話す常連さんがほとんど。地元の人たちが来てくれているんです。コーヒースタンドって単純に商売でいえば人口が多い方が儲かると思うんですが、人が多ければ自分の理想のお店ができるってわけじゃない。そこに住んでる人たちに一杯を出せる、さらにもう一回その人に出せたりするっていうのが山梨、甲府の面白いところだと思っています。

三上 それ、すごくうらやましいです。僕も人と話すのが好きだから、日常的にコミュニケーションをとりながらっていう形に憧れるんですけど、今はポジション的に店頭にもあまり立てないし、立ててもお互いゆっくり話ができるわけじゃない。その辺、仕組みも含めたお店づくりとしてこれから考えていきたいですね。


丹澤 人と関わるっていうところでいえば、逆にコーヒーなんかはもう人がいなくてもおいしいものを淹れることはできると思うんです。コーヒーって割とAIと相性がよくて、技術が発達していけば完璧なレシピ、データに基づいてまったく同じものを淹れるというのが機械でできるようになる。うちでもコーヒーはデータを見て管理してますし。技術的なことだけいえば、僕よりマシーンの方が全然すごいはずです。でも、コーヒーショップっていうのは人間と関わる機会が多い、すごく人間らしいお店だと思ってるんです。そこが好きでやっている。

三上 僕も実際、ちょうどこの前サンフランシスコに行ったときに無人のコーヒーショップに行きました。そこは技術的にはそこまですごいものではないと思いますが、体験としては面白かった。だけど、やっぱりそこじゃないんですよね、コーヒー屋さんって。

丹澤 そうなんですよ。コーヒー屋さんってただ淹れて提供するだけじゃないから時代を超えていけると思うんです。コンビニじゃなく、わざわざ高い僕らのお店に来てくれる人がいるっていうのが僕らの面白さ。結局人は、そういう人間らしさから離れられないんだと思います。

“ありえないこと”というのがありえない時代

丹澤 ボーペイサージュの岡本さんの話が出ましたけど、僕も話をさせてもらったのがきっかけで生まれた計画があるんです。コーヒー豆をつくろうっていう。

三上 こっち(山梨)で豆をつくるってこと?

丹澤 そう。ボーペイサージュって「岡本さんのワイン」でしょう? ワインではそういうことが当たり前にあるんだけど、コーヒーの世界ではまだない。たとえばAKITO COFFEEでも、豆はどこの国のこの農場で育てたものっていうところまでは来ている。いわゆる単一農園という考え方ですね。でも、結局は海外から入ってきているものなので、酒屋さんみたいな感覚でもあるんです。でも、コーヒー豆を本当においしく育てられるような環境を自分たちで整備してつくることができれば、AKITO COFFEEのコーヒーは「AKITO COFFEEの1杯」になる。今後コーヒーってそういう方向に進んでいくんじゃないかと思ってるんです。

この日の対談は、甲府市内にある五味醤油さんのTaneというスペースで行われました。この秋AKITO COFFEEの焙煎所がここにオープン予定なんです。

——コーヒー豆というと熱帯、亜熱帯のものというイメージです。

丹澤 普通に考えるとありえないですよね。でも、正直できると思ってます。今ってもう「“ありえないこと”というのがありえない」と思ってるんです。ワインだって最初に日本に入ってきたときは、これを日本でやれるなんてありえない話だったはずなんです。文化ってそういうふうにつくられてる。今コーヒーもそう思われてるし、実際沖縄で何年も前から育てることにチャレンジしてるけど、台風の影響なんかでダメになったりしている。だけど、生産量にこだわらなければ、うちで消費する分だけならできないこともないとは思ってます。

——まさに「ここだけの1杯」ですね。

丹澤 そうですね。岡本さんと話したときも「おいしいって何かをまず問いただした方がいい」って言われたんです。「日本でつくるコーヒーがまずいって誰が言ったの?」って。で、「もしまずかったとしても、そもそも“まずい”ってどこの基準の話なの?」という話をしたんです。それが日本の味、日本の気候で栽培されたコーヒー豆の味なのかもしれないんですよね。「おいしい」という基準はいろいろある。

三上 岡本さんのワインについての考え方そのものという感じですね。

丹澤 コーヒー業界って、文化的にワイン業界を追ってるようなところがあるんですよ。海外から来て日本で広がっていくという。だから、岡本さんの話を聞いていると、未来のコーヒーの話を聞いている感覚になるんです。

三上 “ありえない”ということがありえないって感覚は僕もわかります。世代的に持っている感覚なんじゃないですかね。そのマインドってすごく強い武器だと思います。

丹澤 ただ、同時に僕は思いつきで「なんとかなるだろ」って何か始めることはないんです。それも世代的な特徴だと思うんですが。現実主義なんです。

三上 世代でいうと現実主義で安定志向という人は多いですよね。


丹澤 そう。コーヒー屋なんて現実じゃない、みたいな(笑)。でも、僕は「現実的に考えていって、できる」という確信があってコーヒー屋さんを始めたんです。それはつまり、ちゃんと数字を積み重ねていって、やれると思ったということ。23歳でお店を始めたとき、たぶんほとんどの人が「まあ、しばらくやってやめるんだろう」くらいに思ってただろうと感じてます。端から見たら「ノリと勢いで起業した」みたいな。でも、そうじゃないんですよね。「“ありえない”ということがありえない」というのも同じで、世界中からデータや数字を集めて、成り立たせることができて初めて「できます」となる。それが不可能ではないって感覚なんです。

三上 そこは亜希斗くんと僕って真逆なんですよね。僕はどちらかというと、超現実主義な同世代の感覚に納得がいかなかった。もちろん新しい技術やデータはROCKでも取り入れているけど、最終的に僕はすごくフィーリングの人間で、だからこそROCKに来たんですよね。ROCKって社長をはじめ、みんなヒッピーみたいな感覚があるから(笑)。でも、一方で見ている未来やビジョンは亜希斗くんと同じで、話もすごく共感できる。同じところを違うアプローチで見ているという感覚です。

丹澤 なるほどね。確かにアプローチの違いなのかも。だからこそ、僕はROCKがこれからどうなるかってすごく興味があります。三上くんがどうしていくんだろうって。

その人の能力が一番発揮できるポジションを考えるのが仕事

三上 こういうビジョンや感覚の共有ってすごく難しいじゃないですか。上の世代はもちろん、下の世代にもなかなかうまく伝えられない。

丹澤 難しい。うちだって1人2人って規模で人を入れるだけでもすごく悩んでます。でも、僕は結局「人を仕事で縛るなんて無理だ」って思ってます。雇うこともしたくないんですよ。フリーで考えて行動できる人間がいるのが一番いい。それは野球をやっていたときの経験からすごく痛感しているんです。僕は高校までガッチガチに野球をやっていたんですけど、野球ってポジションがあるでしょう? あるとき僕、自分が得意としていたポジションとは別のポジションに移るようにいわれたんです。それでポジションを変わったとき、自分の能力が全然発揮できなかった。ずっとやってきた元のポジションなら自分の能力を最大限に発揮できるのに、ポジションが変わると何もできなくなってしまう。それって、仕事なんかでもそうだと思うんです。能力やその人のやりたいことと合っていないことをどんなに一生懸命やらせようとしても、結局能力を発揮させてあげることはできない。だったら、その人の能力が一番発揮できるポジションを考えることが僕の仕事なんじゃないかって思うようになったんです。

三上 その話はすごくわかります。清里開拓の父と言われているポール・ラッシュ博士も同じ考え方で、ポールさんは人間を差別することはないんだけど、能力は比較する。それで、その人に合った仕事を与えてあげるのがその人の幸せなんだって考えなんです。それはうちの社長の舩木にも受け継がれている。

丹澤 まさにそういうことですよね。だから、うちも組織ではあるけど、組織としてこうしていきたいというものはないんです。そこにいる人がどういう能力を持っていて、何をしたいかによって組織をどうするか考えている。たとえば、去年うちに入ってきた子もそう。彼女はもともとうちのお客さんだったんです。そのときは食べ物とは全然関係ない工場で働いていたんだけど、お菓子やケーキをつくるのが好きで、いつか自分でも仕事としてやりたいっていってたんですね。で、うちにもお菓子をつくって持ってきてくれたりしてた。人にそういうことをしてあげたいって思ってる子って、僕はやっぱり消費側でなく、提供側の人間だと思うんです。これを届けて喜んでもらいたいって気持ちがあるわけですから。だから「今の仕事が好きじゃないならやめてお菓子づくりをしたら?」って伝えていた。その彼女が本当に仕事を辞めるってなったとき、このあとどうするのか聞いたら「まだ決まってない」っていうんですね。それで、「じゃあ、うちに来たら」ってオファーしたんです。飲食なんてまったく未経験の子だし、うちに焼き菓子部門なんてなかったんですけど、この人が自分の能力を、お菓子をつくることで発揮して、それで生計を立てられるなら立てさせてあげるのがいいなって思ったんです。今1年ちょっと経って、すごく苦労もしてますけど、努力して少しずつ売り上げも上がってきてます。

事業計画に合わせて人を入れるのでなく、人を基準に事業計画を立てる

AKITO COFFEEさんが新たに導入した大きな焙煎機を見ながら。

——事業計画があって人を入れるんじゃなく、人から事業計画を立てるという発想なんですね。

丹澤 そのとおりです。じゃないと絶対無理なんで。探してるだけで何十年もかかってしまう。

三上 それは僕も今ちょうど考えているところです。ROCKや萌木の村をどうしていくかというのを考えたとき、「まずビジョンを明確にして、そのビジョンに人が集まるようにしよう」って考えてたんです。でも、僕の未熟さもあって、プレゼンしてもなかなかみんなしっくりこない様子だったんです。同時に自分のなかでも腑に落ちない部分を感じるようになっていて。急に今までなかった仕組みだけ取り入れてもうまくいくのかっていう。そう考えると、やっぱり今いる人たちができることややりたいことを考えて、それを萌木の村の未来に落とし込む方がいいのかもしれないと思うようになってきたんです。

丹澤 ただ、これは本当に難しいんですね(笑)。うちのスタッフでも「え! こんなことやりたかったの!」ってことがある。それは僕が理解しないといけない。だって、そのポジションならものすごい能力を発揮してくれたかもしれないわけですから。

三上 亜希斗くんのそういうひとつひとつの考え方すべてに人間味があるんですよね。シンプルかもしれないけど、人生のエッセンスが詰まってると思ってます。

丹澤 基本的にはただコーヒー屋さんをやっているだけなのにそこから得られるものがすごく大きいんですよね。本当に人生を豊かにしてくれる。ただの男の子がコーヒー屋をやってこれだけのことを得られるって、本当に面白いし、誇らしいなと思います。こういうやり方は難しいけれど、僕らはこの街で最高に自由なコーヒー集団でありたいと思ってるんで。勝手にみんながそれを仕事だといっているだけで、僕らはコーヒーを淹れてるだけだし、お菓子をつくってるだけ。それで食べていけたらなって言うのが目標ですね、うちは。

三上 本当に共感できる話です。今日は本当にありがとうございました!

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